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悲しい再会~169話~

一週間だけ圭と会えない時間が必要だった。

店長には私の過去の話をしていたので 

退職ということを 受け入れてくれた。



それから圭の病院の近くに部屋を借りた。

いつでも圭のそばにいられるように……

貯金はあるし 贅沢さえしなければ 当面生活はしていける。



毎日時間があれば 私は圭の携帯に電話をして

圭がちゃんといるって安心したくて…何度も声が聞きたくなった。


引越しの荷物と一緒に 圭のいる街へ戻ってきたのは

ちょうど一週間目。


引越しのプロにおまかせパックで

部屋はすぐに生活していけるようになった。

そして車で五分 かからない圭の待つ病院に向かう。


病室に行くと 圭の姿がなく 混乱した。



  まさか…何かあったの?


詰所に行くと 看護師に圭のことを聞いた。


「日高さん 彼女さんですか?」若い看護師は元気に言った。


彼女だなんて……自分をなんて言ったらいいんだろう。


「彼女が戻ってくるまで 少し元気になりたいって…あ 先生

日高さんの彼女さんですよ。」


ちょうどはいってきたのが 圭の主治医だった。


「日高さんの 噂の美人彼女さんかい?」


「角谷と言います。いつもお世話になっています。

あの…彼は?」


医師は圭と同じくらいの まだ若い感じだった。


「噂は 日高さんから聞いてるよ~~。

最近なら おのろけばっかりしてるから。」


「え?彼がそんなこと?」


「角谷さんのおかげで…今やっと彼に 生きたいっていう意欲が

湧いてきて…今まで完全拒否だった 治療も進んで受けてくれているんだよ。

愛の力は 大きいですよ~~医者なんてちっぽけだな~。」


そう言うと白い歯を見せて笑った。


爽やかな人だなって思った。


「彼は…どうなんですか?」


「治療を拒んできたから少し衰弱はしてしまったけど…今はずい分

元気になったし 何より生きたいっていう意欲が大きくて……

このまま頑張ってくれたら…もう少し長く生きられると思う。」


笑顔だった医師の顔が曇った。


「時間が長くなるだけで……やっぱりたすからないのですか?」


「病気に気づいた時にはもう手遅れだったらしく

札幌での治療を全部拒んで うちに転院してきたんだ。

昔の恋人の生れたところだからって……ほら そこの河原…散歩コースの

そこで初めて会ったって言ってたな。」


「そこでですか・・・。」



多分…そこは おばに呪いをかけられたところ

圭はそれを近くで見ていた……。


「角谷さんのことは…彼から聞いてるよ。年も近いし けっこう話すんだ。

苦労したんだってね。よかった…。彼にとっては一番いい治療だよ。

ただ角谷さんにとっては 悲しい再会になったんだろうけど

彼が角谷さんがそばにいてくれることで 生きたいって思ったのは

すごい進歩だと思うから…どうか支えてあげてください。

辛い時は 俺でよかったら話聞くから…。」


「ありがとうございます。やっと…やっと

彼とまた一緒にいられるだけで幸せなんです。

だから少しでも…私と一緒の時間を過ごせるように…先生よろしくお願いします。」


私は医師の手を握って何度も頭をさげた。



それから病室に戻ると 圭は眠っていた。


この間会った時より 少し顔色がいいような気がした。

近づいて寝息を確認する。



  生きてる……。



私はこうして 圭が眠るたびにこれからこうして確認するんだろうと思った。



圭の横に頭をおいて 私も眠ってしまった。

この一週間 忙しかったな……。

仕事も全部 引き継ぎして……引越し先を探して……引越しの準備して…


やっと圭と一緒にいられる………。


温かい感触を額に感じて 目を開けた。


「おはよう。」 笑顔の圭・・・・。


「おはよう。」 笑顔の私・・・・。



「やっと帰ってきたよ。今日からずっと一緒・・・・。」


今度は私から圭の頬にキスをした。


「約束してほしいんだ。」


「ん?」


「俺の最後の瞬間だけは……笑って見送ってくれるって…。」


「笑うの?」


「幸の笑顔だけ見て…逝きたい。

残酷なこと頼んでるのはわかってるけど……。」


「泣いてても笑えばいいんだね。」


「ありがと……わがまま言ってごめんな。」


その瞬間を想像して胸がつまった。


「じゃあ 私も……。」


「ん?」


「いっぱいいっぱい愛して……今までの分それ以上いっぱい愛してくれる?」


圭は笑顔になった。


「もちろんだよ。ずっと幸を忘れたことはなかったよ。」


「それともう一つ…治療頑張って……そしてね……。」


圭の耳に囁いた。



「幸を・・・抱いてほしいの…。あの頃みたいに……。

圭を心でも体でも全部で……感じたい……。」



圭が顔を離した私を覗き込んだ。


大胆な事を言ったって 恥ずかしくなった。


「抱きたい・・・・・。ここが病院じゃなかったら・・・・

押し倒したいくらいだよ。

頑張って・・・幸の部屋に外泊できるように・・・頑張るから。」



圭の笑顔が嬉しかった。



「待ってる・・・・。」私も笑顔・・・・。



そして長いキスをした。






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