新しい季節へ~165話~
圭との思い出で寝られない夜をひさしぶりに迎えた。
幼いあの淡雪の降る日
ランドセルがないと泣きながら帰ったあの出会いの日
それから板垣の家で恋におちた瞬間
人目を盗んで愛し合ったあの狂おしく幸せだったあの時間
私の全てが圭だったあの日々……。
結ばれると信じていた・・・・・。
板垣の家を裏切っても幸を幸せにするって約束してくれたのに…
結局 圭は 板垣を裏切ることはできなかった。
やっと少しだけ…圭を忘れようとしていたのに・・・・
睦月と再会して
また圭を強烈に恋しがる自分がいる。
睦月が私たちをおもしろがって会わせようとしてるようには
思えなかった。
何かを言いたげで・・・でもそれを言わない…
私も聞きたいけど…それを聞いたらもう後戻りはできない…
そんな気がした。
板垣のおじの肩腕となっている圭が
今さら……私と会って
何かが変わるんだろうか……。
それから睦月は現れなかった。
拍子抜けしたように 私は毎日をいつも通り過ごしていた。
「店長さんいらっしゃる?」
店長の休みの日だった。
甲高い声がして 後輩の子が
「申し訳ありません。店長は本日お休みをいただいておりますが。」
と言った。
「あら 困ったわね。
大下組の会長夫人から 店長さんを御紹介いただいてね
それで今日来てみたんだけど…普通日曜日はお休みってことはないでしょう?
せっかく来たのに…。」
イヤな客だ……こういう鼻にかけたのが
一番面倒くさい…。
私は頬をパシパシ叩いて
「申し訳ございません…。いつもは日曜日は出勤しておりますが
本日は…用事が入ってお休みをとったのですが…。」
そう言って出て行って唖然とした。
凛と凛の母親 洋一の妻だった。
「幸・・・・?」
「あ……。」二度と会いたくない奴らだった。
しかし・・・こっちは仕事で大下会長夫人からの紹介ということで
「ご無沙汰しています。」
凛の母親とは本当に数回顔を合わせたことがあるだけだった。
「ママ ほら…板垣の家に居候して…圭くんたぶらかして
華子を自殺においやった…角谷 幸 よ。」
「あら!!あの!?恩を仇で返したという?」
親子して……こういうタイプ
息が合ってるのね・・・。
「角谷です。」飄々と言ってやった。
「一番会いたくない人間に会うなんてね。
あんたみたいな女がなんで 金持ち相手に仕事してんの?
嫌いでしょ?金持ち?それとも とりいってやろうっていう魂胆?」
あ~~
ほんと相変わらずのムカつく女
「店長は明日おりますので…また御来店いただけますか?
わたくしは 休みですのでごゆっくりお買い物してくださいませ。」
「あんたのいる店でなんて買い物しないわよ。
けがらわしい。あんたのおかげで……あんたは死神よね。
華子に……そして圭くんに……みんなあんたに呪われてるんだわ。」
え?
「どういう意味?」
凛はハッとしたような顔になって
「ママ 帰ろう。」と言った。
「ちょっと待ってよ。今のどういう意味?」
私は思わず凛の腕を引っ張った。
「さわんないでよ!!!」
頬を凛に思いっきり叩かれて私はよろけた。
「な……何すんのよ。
もうあんたたちの傲慢に我慢することは一つもないのよ。
警備呼びますよ。」
思わず私は声を荒げた。
「凛 やめなさい。
この子にかかわらない方がいいわ。
今度はうちに 呪いでもかけられたら大変だもの。」
凛は母親に手を引っ張られて店を出て行った。
「大丈夫ですか?」後輩が真っ青になっている。
「うん。ちょっと昔いろいろあったんだあの家の人たちと。」
店の前では 人が覗き込んでいる。
圭に…何かがあったのを確信した。
私は圭に会うべきなのかもしれない……。
圭と会ってどうなりたいのかは わからないけれど……
圭に会わなきゃ…そう思った。