新しい季節へ~163話目~
気乗りせずにつれて行かれた 合コンっていう
一番苦手なイベント……。
「私は話さないから フォローしてね。
一次会で帰るから。」
「もう充分です~。とりあえず座っててくださ~~い。」
まったく・・・・・
違う自分がそこにはいた。
別人だわ・・・・・。
待ち合わせしていたもう二人の女の子と 入って行くと
三人の男性が座っていて
「よろしく~~。」なんとも軽いノリでお互い挨拶を交わしていた。
「あと一人は10分くらい遅れるから。」
そんな感じで飲み会スタート
行きかう会話
今どきの人達って 初対面でもけっこうすぐに打ち解けるんだ。
「幸さんも アパレルの仕事?」
「はい。」
会話が続かない。
いいよいいよ 私のことはおいといて三人で仲良くやって。
どうせならと 飲み放題の酒に手がいった。
普段は家で静かに飲んでるから いろんな種類のお酒が飲めるのは
とっても楽しかった。
「すみません。遅れまして~~~。」後から男の声
「おう!!待ってたぞ~~。うちの社のホープなんだ。」
「今日は仲間に入れてもらってありがとうございます。」
男が私の前に座って 視線がとまった。
ん? ん? ん?
見覚えのある顔……だけど……
「遅くなってすみません。 板垣 睦月 です。」
む……むつ…き……????
やばい・・・やばい・・・・
女の方も自己紹介を始めた。
「こっちは幸ちゃん。」
睦月は一瞬 反応したけど それからは全く私のことが
わからないようだった。
よかった・・・・・。
一次会は若いもの同志で盛り上がっている。
私は睦月がどうか 私だってことに気づかないでくれと祈るだけだった。
だけど睦月は結局 私のことがわからなかったみたいで
会話を適当に流して 二次会に流れる団体から距離を置いて
静かに場を離れた。
あとは後輩がうまくいってくれるだろう。
[貴重な時間だったのにな。」
歩きだして少ししたら いきなり手をとられた。
「きゃ・・・」
恐怖で見上げると 睦月が笑っていた。
「あ・・・やっぱ知ってた?」
「わかるだろ やっぱ。合コン出るんだからもう立ち直った?」
「あのね…今日はドタキャンされたって子がいてって朝からずっと
後輩に泣きつかれて 断り続けてたら 店長から行けっていわれて
こうなったわけなの。」
圭はどうしてる?
聞きたくて でも聞いたら行けない気がして・・・・
「睦月・・・親の会社に入らなかったの。」
[絶対入りたくないよ。いいんじゃない しっかりとした後継者もいるし。」
睦月は私の顔を見た。
「あ そう。」 圭のことだってすぐにわかった。
「圭くんのこと…聞きたい?」
[聞きたいような 聞きたくないような。」
「そうだよな~~引き裂かれたんだもんな。圭くんは結局 愛より安泰を選んだ。」
「そういう言い方しないで 何もわからないくせに。
私たちは全部納得して 終わってるんだから。」
「みんな圭くんの言う事 聞くからね。」
「相変わらず ひねくれてるわね。
二次会いかないの?」
「今日の女たちレベル低いから やだ。」
「あ そうですか~~~。」
睦月は私の方を振り返って
「幸 どっか行こうよ。」と言った。
「悪いけど 板垣さんとはお付き合いしたくないの。
できれば会いたくなかったわ。いい思い出ないから。」
「うわ~~~きついお言葉だ~~~。」
「じゃあね。」
歩きだしたら 睦月にまた手をとられた。
「俺は板垣から出家してんだ。関係ないからいいよな?」
「無理だって。あんたの顔見てたら怖いおばさんの顔が浮かんでくるの。」
「かあさんか……。」
「おやすみ ぼうや~早く帰って寝なさい。
おねしょするから寝るまえに トイレいきなさいよ。」
睦月が手を離したから 私は急ぎ足で地下鉄の入り口から降りた。
板垣とはもう二度と会いたくなかった。
圭のことを 引きずってないって言えば 嘘になる。
でも睦月の情報で
圭はおじの肩腕になっていることはわかった。
結局圭は おじの呪縛からは逃れない・・・・・。
わかっているよ。
それは 運命なんだから・・・・。
「飲み直そうかな~~。」
帰りはまたスーパーに寄って つまみとビールを買ってかえった。
睦月も大人になってたな~~
あれから年月は間違いなく 過ぎて行っている。