新しい季節へ~162話~
板垣のおじとは 身元引受人としての接点はあったけれど
それ以外では板垣家とはまったく会うことも 噂を聞くこともなかった。
ただ景気はいいようでたまに流れるCMなんか見ながら
「ふ~~ん」と流している。
圭はどうしてるんだろう
本当はそれが死ぬほど知りたく…そして知ってはいけないという
複雑な感情が入り混じり……私の心を切なくさせる。
そんな毎日の中で私はまた一つ年を重ね ため息も増える。
「角谷チーフ…お願いします!!」
誕生日の日
今日は後輩から何度も何度も頭をさげられている。
「無理よ。絶対無理!!そういうのは特にダメ。」
「そこをなんとか・・・・三十分でいいんです。だまってもらってていいから…。」
必死にたのむ後輩は 今日はコンパだったらしい。
相手方のグループとは やっとコンパに
こぎつけたとか……で だけど今日女の子が一人
高熱でダウンしたことによって 慌ててメンバーを募っているが
急な誘いでなかなか見つからず 私に頭をさげたとか・・・・。
「それに私おばさんだし・・・・。」
「それなら大丈夫ですって。座って微笑んでくれたらおばさんに見えないし。」
「は?」
後輩は慌てた様子で
「向こうも会社関係の人たちだから若い男ばっかでもないと思います。」
「角谷 そういうのもいい経験だよ。行ってきなさい。
うちも今度は紳士服にも手を出すようだし…リサーチだと思ってさ。」
とうとう店長命令が出た。
「そういう軽い女だと思われるのはイヤなんですけど。」
「いろんな世界があるんだって。行っておいで。
もうこの話は終わりだよ。」店長はそう言ってパソコンに向かう。
「キャ~~~ありがとうございます。一生恩にきます~~。」
誕生日……私は軽い女たちと軽い男たちと過ごすのかと思うと
気が滅入ってしまった。
店が終わると 店長が率先して私をコーディネートし始めた。
「これさっき 休憩時間に私が見立てた勝負服ね。
給料出たら返してよ。」
店長はとても楽しそうに後輩と あ~だこ~だ言いながら私の化粧を直したり
「おもちゃですか?私は。」
「角谷 あんたはさ いい女なんだから 殻に閉じこもってないで
もっともっと磨きなさい。頭ばっかり磨いたって…自分自身を磨かないと。
こういう仕事してるとこの人にはこんな洋服が似合うとか
そんなこと考えてばかりいるけど…あんたは自分にも似合うものを
探さないとダメだよ。もっともっとお金をかけなさい。
時間をかけなさい。自信を持ちなさい。
そしたらきっと…角谷はもっともっと幸せになるんだから。」
店長は私の身の上を知っていた。
「あ~~~もう想像超えて 角谷 今日の主役だね。」
店長が言うと
「それは困ります~~彼氏が欲しいのは私ですから~~~。
店長~~私も見てくださいって~~。」
後輩が悲鳴をあげた。