新しい季節へ~160話~
高校を卒業して この家からでていくことになった。
おじからは
「おまえが一人前になるまでは身元保証人になるから。
借金以外のことは連絡よこしなさい。」
一人暮らしのために必要な資金と保証人になってくれただけでも
感謝しなければと思った。
「おじさん・・・すみませんでした。」
「おまえのことは憎くて仕方がないが…それは私の義務だから
おまえも早く幸せになりなさい。」
華子と私をできるだけ関わらせたくなかったんだろう。
屋敷から私を早く追い出そうとしているのもわかったけど
それでも 感謝しなければいけなかった。
一人では生きてはいけないから・・・・。
おばからはもうあの優しく美しい笑顔を見ることもなかった。
私を見る おばの目はもう
汚いものを見るような 軽蔑しきった目だった。
私もそんなおばの顔をまっすぐ見据えた。
今はやっぱりおばの方が憎くなった。
出て行く日 玄関で朝帰りの 睦月と会った。
「あれ?おまえどこ行くの?」
「お世話になったね。出て行くことになったの。」
金髪のロン毛の睦月は まゆげもなくなっていた。
「どこに?」
「ここからは遠いとこ……。あんたも早く落ち着きなさいよ。
眉毛はね・・・ないとおかしいから……。
私 あんたのことは嫌いじゃなかった。
けっこう楽しかったよ。」
意外な顔をした睦月がキョトンとした顔をした。
「そうなの?」
「うん。弟みたいで……可愛かった。
お世話になりました。元気で 早く真っ当な道に軌道修正してね。」
思わず睦月の頭を撫ぜて 私は家を出た。
振り向けば大きな屋敷
あの部屋は 圭の部屋の窓………。
「さよなら……私の王子さま……。もう二度と…会うことがないように…。
そうじゃないとまた区切りをつけた私の想いがぐらついてしまうから
幸せにね。」
私が出て行くのと入れ替えで 圭がアパートを引き払って華子と一緒に
この家に戻ってくることになっていた。
圭は全部を捨てて…私を選んでくれると信じていたけど……
こういう状況になってしまえば…圭の選択はしかたがないのかもしれない。
愛する人が苦しむのは もうこれ以上見たくないから。
別々の道へ進む朝
清々しい空気が私を包んだ。
負けるな 幸。
絶対に 幸せになってやる。
自分の手で 幸せをつかみ取ってやる。
ケチな呪いになんか負けるか……。おばの思うとおりになんか
絶対にならない。
両親の願いがこめられた
幸という名前は・・・・幸せになりなさいって言う名前。
ここから出たら 私はみなしごの哀れな娘ではない。
部屋の近くのショッピングモールの大人向けの落ち着いたブティックで
採用されて 働くことになった。
「角谷 幸です。よろしくお願いします。」