流れゆく時間~百五十九話~
ねぇ…幸…
あの日から俺は 幸の事が忘れられなかったんだ。
ねえさんがしたあのひどい仕打ちは 弟として罪悪感で一杯だった。
そして一瞬 目が合った汚れない大きな瞳に与えた恐怖感
零れ落ちる涙は いつまでも俺の心から消えない光景になった。
壮介さん夫婦が亡くなったと知った時
ねえさんは 驚いた表情をしていたけど
「圭……神様は 私の味方なのね。」そう言って微笑んだ。
俺はそんなねえさんの復讐はこの死を持って終止符を打ったと思っていたけど
とりあえずにいさんが幸をこっちの養護施設に引き取ってもらって
身寄りのない幸をどうするか にいさんから相談されたねえさんが
「身よりはあなたしかいないんだから……。
私なら大丈夫よ。子どもも二人もいるんですもの。
そして何より あなたに愛されて…私は満ち足りているわ。
可哀そうな幸ちゃんを…なんとかしてあげましょうよ。」
ねえさんは 美しい笑顔でそう言った。
幸が暮らす養護施設には にいさんに数回ついて行った。
直接幸には会わなかったけど
暗い目をして外を見てる幸 遊具のブランコに揺られてる幸
ねえさんがあんな呪いをかけなければ 幸はもっともっと幸福に
生きていたはず そう思うと切なかった。
小さな女の子が 俺の心にまた住みついた。
それは罪悪感なのか……。
ピンクのランドセルをお祝いにかってあげた。
渡しにいくタイミングを計ってた時 ランドセルの存在が
華子と凛に見つかって 大変な騒動になった。
後でにいさんに聞かれた時
「お世話になっている先生の娘にプレゼントする。」
苦し紛れの嘘をついたけど
にいさんは深く追求しなかった。
ピンクのランドセルを背負って楽しそうに登校する幸を
隠れて何度も見に来た。
そんな自分が小さな幸に 普通の感覚とは違う何かがあることを
あの時点では受け入れられなかった。だからしばらく会えない状況に自分を置いて
見つめ直して来ようと誓って 出発する間際の
あの日雪の日 俺は誓いを破ってとうとう幸の前に出てしまった。
その出会いで俺は運命を痛烈に感じたんだ。
「幸を幸せにしてやりたい。」
罪悪感ではない 愛しいものを守りたい
そう誓って 俺はしばらく幸の前から姿を消した。
ずっとずっと…幸の笑顔を見たいと思ってたんだよ。
俺があの泣き虫を笑顔にしてやるって…
だけど……だけど……
簡単なことじゃなかったんだね……。
幸………ごめんな。
俺には華子や ねえさん にいさんを 捨てる勇気がないみたいだ。
幸という名前は
「幸せ女の子になってほしいという 両親の想い・・・・。
それからこれから幸せになれよっていう俺の想い………。」
ごめんな 幸………。
もう そばにいてやれない……。
抱きしめてあげられない……。
愛してると未来を語り合えない……。
華子が納得できるまでそばにいてやるつもりでいる。
弱虫な俺を
軽蔑してくれ・・・・・。