流れゆく時間~百五十八話~
更新が停滞しててごめんなさい。私ごとなんですが 老愛犬の具合が悪くて
介護と不安で 毎日泣き暮らしています…。更新待っていて下さい。
読者さまへ・・・・
「ねえさん 帰ろう。」圭が静の前に立ってそう言った。
静の怒りと絶望は いつもの穏やかな姉に違う人格が乗り移ったようだった。
圭が慌てて静を追って 壮介の前を通り過ぎようとした時
「圭か?」壮介が声をかけた。
「はい。ねえさんにひどいこと言ったんですか?」
「静には幸せになってもらいたい。俺に心を残さないように…俺を憎んで
抹殺してほしい。大介と一緒になるならなおのこと…俺たちは離れて暮らしていても
双子だから……いつまでも俺との思い出を美化してたら
幸せになれないから…少しきつい事を言ってしまったけど
これはねえさんには言うなよ。」
圭は複雑な思いだった。
「そう言ってあげてほしかった。ねえさんそれを期待してたんだと思う。」
「守ってやってくれな。おまえが生れてずっとずっと母親代わりで
遊ぶこともしないでおまえを大切にしてきたんだから。」
壮介の想いも圭には理解できていた。
「壮介さんもお幸せに…。」
「ありがとう。」
静にこのことを言ってやるべきか 圭は迷っていた。
「日高さん それじゃ来週ね~~。」
向こう側から若い母親の集団がベビーカーを押して歩いてきた。
一人の母親がみんなに頭を下げて 右に曲がった。
日高って言ったよな…。
数人とすれ違う時
「幸ちゃんって絶対美人になるよね~~あの白さはすごいもんね。」
「日高さんのご主人もけっこう素敵なんだって。
この間盆踊りの時 幸ちゃん抱いて来てたみたい。夫婦揃って浴衣で来てたって。」
「へ~~いいよね~~
もう一軒家に住んでんだよ~~うちなんて夢だわ。」
右に曲がったのが 壮介の妻子と確信した静は後をついていく。
「ねえさんって。」圭の声は聞こえないのか 静は河原の道をまっすぐ降りて行く。
先回りした道から 母子連れの前に静が現れて笑顔で会話してる。
俺の考えすぎか・・・・?
圭はそう思って少しホッとした次の瞬間強い風が 母親の白い帽子を飛ばした。
母親は白い帽子をとりに走っていく。
圭もその光景に気を取られていた。
少しして 静はまた歩きだした。
あれ…ねえさん・・・・・
圭も姉の後を追って 壮介の妻子と思われる二人を追い越そうとした時
「ギャ~~~」赤ん坊の甲高い悲鳴のような声が響いてビックリした。
「どうしたの?幸。」慌てたように母親がベビーカを覗き込んで
「キャ~~~~」悲鳴をあげた。
圭は目を疑った。
真っ赤になって泣く赤ん坊の太ももから ミミズバレのように爪で裂かれた傷ができて
出血している。
「幸!!幸!!」
母親の絶叫に人が集まって来た。
「ねえさんだ・・・・・。」
一瞬 赤ん坊と目があった。
大きな目から一杯涙をこぼしていた。
ごめんな…ごめんよ……
圭は胸でそう叫びながら 黒い洋服を着て立ちさる静を追い掛けた。
また赤ん坊の泣き声が響いた。
圭は胸が裂けるのではないかと思うくらいの罪悪感で一杯になった。
「ねえさん」
「呪いかけてあげたの。絶対に不幸になる呪い。」
圭は見たこともない姉の変貌に 身震いを隠せなかった。