流れゆく時間~百五十七話~
圭は少し離れたところに立っていた。
「おひさしぶり。」
静が声をかけると
慌てて家から出て来た壮介は 少し太っていて幸せそうに丸い顔をしていた。
「どうしたんだ?何のつもりだ?」
幸せそうな丸い顔からは想像もつかなかった壮介の冷たい声に
静は思わず身構える。
「報告があったから。」
「報告?今さら何の報告だ?」
あんなに優しかった壮介はもうここにはいなかった。
「結婚することになって…。」
「だから何で俺に報告するの?もう別れたんだしいちいち
言いにくるってどういうつもりなんだ?」
「あなたの親戚になるから…。大介と結婚したの。」
険しかった壮介の顔がさらに険しくなる。
「あの家とはもう関係ないし 親戚付き合いも一切しない。
関係ないからわざわざ 来ることもないだろ?」
静の心の中はまたフツフツと煮えたぎってきていた。
「俺はここで幸せに暮らしてる。
邪魔しないでくれ。」
「そんなつもりは…ただあなたとちゃんと向き合いたかった。」
「おまえたちがそうなるだろうってことは予想してたし
おまたちはけっこう俺の目を盗んで二人であってたんだって…
洋一がご丁寧に情報を流してくれてたよ。
運転手から聞いたってさ…。」
「そんな…そんな盗んでとか…。」静は慌てた。
「それがおまえのことしか見えてない時だったら死ぬほどショックだったけど
その話を聞いた時はもう…別れた後だったし
だからおまえは俺を追わなかったっていうのも納得できた。」
「違うわ。そんなんじゃ…ちゃんと理由があったのよ。」
「いいって今さらどうでもいい話だから。
そろそろ帰ってくれるか?もうすぐ友人たちと食事に行ってる妻と娘が
帰ってくるから いらない心配させたくないから。」
静の心が打ち砕かれた。
もっとおだやかに会話ができると思っていたのに…。
会わなきゃよかった……。
美しい思い出のまま しまっておくんだった。
「ごめんなさい…それじゃあ…。」
涙が出そうになった瞬間に背中を向けた。
バカね 私・・・・・・。
この再会に何を求めていたのか…。
「ねえさん~~」圭が追い掛けてくる声が遠くから聞こえてくる。
バカだ・・・・バカだ・・・・
死んでしまいたい・・・・・。
美しい別れにしたかった…ただそれだけだったのに
全てをめちゃくちゃにされて静には怒りしか残らなかった。
裏切られて許せなかったけど
時間がたったらそれも笑って語り合える心の余裕があったつもりだった。
でも壮介はすっかり人が変わってしまったようで
もうあの頃の 優しかった壮介はいなかった。
「許さない 一生・・・・恨んでやる。
もし私に魔法が使えるなら おまえたち家族を呪い殺してやる。」
そうつぶやいた。
「ねえさん……。そんなこと言っちゃダメだよ。」
圭の声をかき消す怒り。
呪ってやる おまえたちに幸せな未来などない……
来るならそれを全て奪ってやると……。