流れゆく時間~百五十四話~
花束が足元に転がった。
「あ・・・・・・。」静は目を失った。
壮介の母親の墓の前で 抱き合う二人……それは愛して…愛して…今も忘れられない
恋しかった男は……自分じゃない女を抱きしめている。
「嘘……。」
壮介の母親に手を合わせて 祈ることは一つだった。
「壮介に会わせてください。」
それだけを祈って季節が流れて行った。
あの女は?何?
歩きだしてきた壮介が女を守るように歩いて来る。
静は姿が見えないように木陰に隠れた。
「壮ちゃん…お腹すいちゃったよ。」甘えた声に虫唾が走る。
「まどか太るぞ~~。さっきも食べたじゃん。」
「まどかじゃなくて お腹の子が食べたいんだよ。」
静は頭を殴られた気がした。
「学校回ってから 何か食べに行こう。」
「あ~~ひさしぶりだわ。まどかが初めて恋したあの校庭。
壮ちゃんに片想いして……告白して……それから…想いが通じて…
あの日のこと今も鮮明に思い出すわ。」
「やらしいな。ここでそんなこと思い出すな。」
「してみる?あそこで。」
「バカ。お腹の子がびっくりするからな。
生れてからにしよう。」
「もう 壮ちゃんったら~~。
まどかと子どもとどっち大事なの?」
女は壮介に絡まって歩く。
学校時代から・・・・? 誰?
静の体は怒りで震えていた。
考えたくなかったけど もしかしたら……もしかしたら
壮介に裏切られていたんだろうか……。
あの時 苦しそうに別れを言いだしたのは……ただ単にに
未来に自分は必要なかったっていうのは建前で……
女がもう…いたんだろうか……。
女は高い声でケラケラ笑った。
!?
聞き覚えがあった。
球技大会が終わってから 壮介と噂になっていた後輩……。
黄色い声で大きな声で笑っていた
目立とう精神旺盛な…きっと壮介が一番苦手だと思うタイプの女……。
「バカじゃないの私……。」
裏切られているのも知らずに こうして壮介の母親に
再会を祈って生きて来た。
それだけを・・・・それだけを心に生きて来たのに……。
涙が流れた。
「ひどいわ壮介……。」
裏切られていたなんて……
幸せそうにじゃれ合う二人の背中が涙で見えなくなるまで見ていた。
壮介と出会って愛し合ったあの日々を 思い出していた。
未来はずっと一緒
そう言い合って生きて来たけど 壮介の隣にいるのは違う女だった。
「絶対に許さない……。呪ってやる……。」
母親の墓に供えられた花束を地に叩きつけて 足で踏みつける。
「悪いけど おばさん…
私は絶対あの二人が幸せになるのを許さないから……。」
自分が持ってきた花束を墓に供え直した。