離れて行く心~百五十二話~
とうとう…静に告げてしまった。
いまごろ 静はきっと泣き崩れているだろう
罪悪感とともにいいようのない喪失感……。二人で傷を癒しあってきたのに
自分は他の女を愛してしまっていた。
ただ…まどかには静と別れたことは話さないことに決めた。
そしてここに静がいる間は まどかとは二度と特別な関係にはならないと誓った。
それが静へ対する 壮介の精一杯の想いだったから……。
静はそれから自分を避けるように目を伏せた。
元気は痛々しいほどなく 心配になるくらい落ち込んでいる様子だった。
わかっていたけど もう自分は何もしてやることはできないから……。
静はやがて公務員試験に合格し
壮介は同じ北国だけど雪の少ない土地の大学へ進むことが決まった。
「技術者となって専門的な仕事をしたい。」
父親の会社は 大介が継げばいい。
大介はそのつもりのようで将来会社を経営するという前提の大学に進んだ。
「おまえの力はうちには必要だから いろんな資格をつけて
戻ってきなさい。大介とのことはそれから考える。」
あくまでも父親は 壮介を自分の会社へと強く思っている様子だったが
壮介にはこれっぽちの未練もなかった。
出て行くために つく嘘……。
自分はもう二度とここには 戻らない。
まどかには出発の日を教えなかった。
まどかは知りたがったけど ここを出て行くまでは静への償いだと思っていた。
出発の前日 まどかに初めて電話をした。
「私も…絶対来年…行くから……。」泣きじゃくるまどか。
愛おしさがこみあげる。
「お見送りしたいの。いつ行くの?」
「決まったら連絡するよ。」
「意地悪……。まどかだって抱しめてもらいたい……。」
「ごめんな。向こういったら……たまに遊びに…って寮だしね…。」
「もう…バカ……バカ……。」
「また電話するよ。途中の街で…デートしよう。
俺 バイトしてまどかの旅費と一緒の宿泊費稼ぐからさ。」
「ほんと?絶対?」
「うん。電話はなるべくたくさんするから。これからは携帯電話の時代だよ。」
「早く携帯ほしいな。そしたらいつでも一緒にいられるのに。」
しばらく無言が続いて
「恋人とは……恋人とはどうなったの?」恐る恐るまどかが尋ねた。
「別れたよ。」壮介はそうとらえていた。
あれから静のモーションは一切なくなっていた。
少しあっさりとしててガッカリしたことも事実だった。
「ごめんな 今まで中途半端で……。でもどうしても彼女のいるところで
まどかと付き合えなかった。」
「わかってる……。大切な人だったんだもんね。」
「そう。だけどその人より大切だって想ってしまったまどかに出会ってしまった。」
「先輩……。」声が泣き声で消えてしまいそうだった。
「俺と…つきあってください。」
とうとう壮介はその言葉を 静以外の女に言ってしまった。
「はい。」まどかはしばらく電話口で泣きじゃくっていた。
愛おしくて…守ってやりたい……。
壮介は まどかを抱きしめてやりたくて仕方ないくらい愛おしかった。
季節が流れて行く………。
大介と壮介にも………静とまどかにも…………。