離れていく心~百五十一話~
壮介を…裏切ってしまった……。
白い肌に浮かんだ赤いバラのようなキスマークを
風呂場でぼんやり見ていた。
絶対に別れたくないって……そう思っていたのに……私はなんて
最低な女なんだろう……
静は大介に抱かれたことを後悔していた。
最初はやっぱりどこかよく似てる大介にすがってしまった……
しばらく壮介に抱かれてはいなかったから……体も飢えていたのかもしれない。
だけど途中からはっきりわかっていた。
壮介とは違う……大介は全然違った。
自分の知らなかった女の部分が 大介によって開花してしまった。
きっと大介は……女の扱いに慣れている
そう思った。
でも…自分をみだらで汚いと思う反面
大介に抱かれた体が疼く………女が……私の女が……大介に抱かれたいって叫んでる。
壮介との幸せだった時間
人生に絶望してただ…もがいていた自分が 今のなりたかった自分になれたのは
壮介と愛を語り合ってきたからだった。
その壮介にもう自分は必要ないと言われた。
また……涙が溢れて来た。
ずっとずっと壮介が自分の人生にいると思っていた。
自分にはまだ壮介が必要だと思っている……。
赤いバラがせせら笑う……。
いいこといっても…他の男に抱かれたんでしょ?
あんたに壮介に別れないでって言える資格などない……。
だってあんたの体は 大介にまた抱かれたいって疼いている……。
静は顔を覆った。
「何をしたいんだろ……私は……。」
シャワーの音が泣き声を消してくれた。
「そう・・・・・・壮介~~~~ぇ~~!!」
心と体が二つに分かれてバランスを失っている。
心は壮介を求めて……体は大介を求めている。
どうして女になんか生れたんだろう……
自分の中に流れる 淫乱な母の血が……こんなに他の男を求めてしまうんだろうか。
男にだらしない母親を軽蔑して生きて来た。
それなのにあの頃 母が隣の部屋で男に抱かれてあげていた声を……
また自分があげていた。
無我夢中になって……自分じゃないおさえられない自分は
まるで大嫌いだった母のようだった。
絶望が広がって……愛する人と心が離れていく……
静には喪失感だけが……広がって行った。