離れていく心~百五十話~
涙がワイシャツを濡らした。
「ごめんなさい・・・・。私ったら・・・・・。
眠ってる大介くんがあんまりにも壮介の顔に似てて……。」
我に返った静は慌てて顔を離そうとしたけど 大介は静にそれを引き戻した。
「悲しいことがあったんだね。俺で力になれることなら……
いいよ…まだここにいて……。」
そう言ったら静はまた泣きだした。
「優しくしないで……もう…私って…いやな女……。
大介くんを利用してる…ヒック……。」
大きな嗚咽がおかしくて抱きしめた。
そして体の向きを変えて静をソファー側に押し込んだ。
大介は静の頬を両手で包み込むようにして顔を覗き込んだ。
たぶんこの時点で 静は大介に壮介を重ねている。
自分のことだけ愛してくれるようになるまでには時間がかかるから
今は壮介と思いこませることが優先だと思った。
「かわいそうに……こんなに泣いて……。」
「恥ずかしいわ……。」静は顔をそむけようとした。
「俺は静ちゃんのためなら何でもするよ……。壮介にだってなれる。」
静の目が大介をまっすぐに見つめた。
「何言ってるの……。そんなこと……。」そう言いながらも静は目を閉じた。
「大介くんのこと もう見ない……。」
「どうして?」
大介は静の涙に唇を寄せた。
「だって……だって……大介くんに失礼だもん……。」
大介の頭の中には
今だ……今しかない
そうこだましている半面
落ち着け…落ち着け…
自分を必死にとどめている。
大介は 熟女と呼ばれる年代のお手伝いの美代と何度も関係を持っていた。
年上の女は 未熟者をすっかりと男に仕上げてくれた。
「おぼっちゃまは もうこのテクニックで女性を好きなだけ
虜にできますよ。」
美代のお墨付きだった。
「静・・・・・。泣かないで……。」
甘く耳元で囁き 愛しい耳たぶをもっと甘く噛んだ。
「だいす………け……。」
静の真っ赤な目がトロンとしてきた。
「壮介だって……。壮介だと思っていいよ。」
違う耳を責めると 静が甘い吐息を吐いて体をねじった。
大介……落ち着け……。
今 一番欲しいも思ってる獲物がもうすぐ手に入る
その興奮が大介を 走らせようとしているのを理性が必死に止めている。
愛しい鼻さきに唇を寄せると 静の体から力が一気に抜けた。
自分におちればあとは もう静を離さない自信はあった。
美代さんのおかげだな……。
自分を立派な男に成長させてくれた美代に感謝してる自分がおかしかった。
静の薄い唇を奪うと もう静は体を大介に預けて来た。
このまま一気に行くか……。
それから大介は美代に教えられた全ての勉強を静に向かって披露した。
静の声は切なく…そして何度も「助けて……。」と叫んだ。
そして最後の瞬間
「大介~~~~っ……。」と叫んで 果てた。
勝った………。
大介は壮介を思い出していた。
愛する母を一人占めにした……抱きしめられたいのに母は壮介しか見てなかった。
かあさん 俺を見て……
俺だって かあさんの子どもでしょう?
抱きしめられた壮介が甘えた仕草で大介を嘲笑っている顔を
忘れられなかった。
静を……俺のものにするから……。
おまえよりずっと幸せにしてやる……。
「大介くん……やだ…すごくて…私ったら……。」
肩を動かした静が口をおさえた。
「可愛いよ……静……。めっちゃ可愛い……。
世界で一番……可愛いよ……。」
「やだ……優しくしないで……私…ずるい女なんだから…。」
「俺を利用して……静に利用されるなら最高に気持ちいいよ。」
静は女だった……。
だから壮介と大介の違いに気がついていた。
だから最後に混乱しないで大介の名前を叫んだんだと確信していた。
女の部分の静が 落ちた……。
あとは心だけ……一番欲しいのはその心……。
「可愛いね。静は……。」
体の力が抜けたように静は荒い息を整えるだけで動かなくなった。
愛しい女の体に 真っ赤な印をつけた。
俺だけのものだよ……。
何度も吸われた 大介の 唇の跡が 静の体を真っ赤に染める。