すれ違う想い~百四十四話
「ご馳走さまでした。」
今夜も大介は 静のおじの家で夕飯をご馳走になっていた。
父親が仕事の方で融通をきかせたようでおじ夫妻はとても喜んでいた。
それからはこうして 誘いを受けては
静たちと一緒に 夕飯を食べるようになっていた。
静の弟の 圭 もすっかり大介になついて
今では おにいちゃんと呼ぶようになって 弟のいない大介は
圭が可愛くて仕方がない。
賢い圭の未来も楽しみだったし 何より 静の宝物だった。
「圭が生れてからは それなりに仕事が増えたけど
辛くても頑張れたの。一人じゃないって……そう思って。」
静の大切なものは 大介にとっても宝物だった。
いつしか静も圭も 自分にとってはかけがえのない存在になっていた。
今までは 壮介への復讐と考えて 静に近づいたけれど
もうそんな思いは 消えて
自分の人生にとってなくてはならないものに変わって行った。
静の部屋に行って 読んだ本の感想を言い合ったり
自分の好きな本に静が感心を示してくれたりするのが楽しかった。
静の美しい微笑みが見たくて 大介もいろいろ知りたくなっていた。
「球技大会 なんだか面倒だわ。私運動は ホントにダメ。」
「俺も運動はあまり得意じゃないんだ。」
「休みたいな~~~。」静がそうつぶやいた。
静はそんな気持ちが大きくて 壮介を誘って学校をさぼって
壮介にたくさん抱きしめられたいと思っていた。
壮介も団体戦が嫌いだったし きっとその誘いに乗ると思って
学校帰りに 壮介を誘ってみたら
あっさりと
「俺 今回は出るよ。」と言った。
「この間までさぼりたいなって言ってたのに?」
壮介は一瞬あせったように
「なんか…ほら俺それなりにこなすから チームでも結構必要とされてるんだ。
責任感っていうやつ?」
そう言った。
「静ちゃん 一緒にさぼろうか。」
大介から思いがけない言葉を言われて 壮介にむかついていた
静は思わずうなづいていた。
「見たかった映画があるんだけど……一緒にどうかな。」
「もしかして・・・あの・・・」
静が言いかけたのと一緒に大介と同じ映画のタイトルを言って
二人で大爆笑になった。
「私もそれ見たかったの~~。一人じゃなんか…行きづらくて
映画なんて見にいったことないから……。」
興奮気に叫んだ。
あえて壮介のことには大介は触れないようにしていた。
静が大介とこうして会う約束をしたことに 罪悪感があるだろう。
気づかない振りをして明るく会話した。
大介は帰り際に 驚く静をよそに おじ夫婦に
「来週の球技大会なんですが 僕 運動苦手で…静さん誘って
学校休んでもいいですか?」
静のおばは目を丸くしたけど 笑いながら
「いいんじゃない?静も嫌いだもんね。」
そう言って微笑んだ。
「僕が誘ったんです。」
静のおじとおばは笑っていた。
大介には確信があった。
二人の思うところに もっと大介と静が深くかかわってくれればいい。
会社のため 生活のため
板垣の家ともっと太い絆が欲しいと思っているはずだった。
大介の父親もそう考えているようだったし
静が自分を好きになってくれれば きっと壮介とは別れる
大介にはそんな確信があった。