すれ違う想い~百四十二話~
「角谷先輩……。」
帰り道声をかけられた。
ふり向くと 背が小さくてぽっちゃりとした女子が立っていた。
「私……先輩に憧れているんです。」
透き通るような白い肌で 餅のようだなと壮介は思った。
頬が寒さで 赤くなっている。
「ありがとう……。」
何度か告白されたけど すぐに付き合ってほしいと言われれば
「無理なんだ。」とやんわりと断れれるけれど
憧れてるといわれれば
次の言葉を待つしかなかった。
「これからもずっと 憧れてます。」
その女子は そう言うと 大きなため息をついた。
「ふぅ~~緊張した。」
そう言うと女子は反対方向へ走りだした。
壮介が呆気にとられていると 女子は足を滑らせて
ド派手にひっくり返った。
あおむけでしばらく空を見つめている。
壮介は驚いて 女子に近づいた。
「ね・・・大丈夫?」と声をかけた。
「あ・・・・・・。」一瞬ボーっとしてた女子が慌てて立とうとして
また足を滑らせてひっくり返った。
思わず壮介は爆笑してしまった。
「大丈夫か?落ち着いて…ほら……。」
女子に手を貸すと
「いえ・・・いいんです…。重たいから……。落ち着きます 大丈夫です……。」
フラフラとして女子が立ち上がった。
「何してんだろ。私ったら…先輩の前で……。」
今度は落ちこんだように壮介に背中を向けて歩き出した。
歩き出した女子は カバンも持たずに足を引きずって歩いている。
「あ・・・ちょっと・・・。」
壮介はバックを持って慌てて近づくと
「私ってどうして…こうなんだろ・・・。落ち着きがなくて…
こんな大事な時に……ほんと…バカ……。」
女子はブツブツ一人ごとを言いながら歩いていた。
その一人ごとがおかしくて 壮介はその後を魅かれるようについて行った。
しばらくして
「あ・・・あれ・・・あれれ・・・・。」
やっとカバンの存在に気付いたようだった。
「もう…やだ……やだ……。」
ふり向いた女子が目を丸くした。
「先輩~~。」
「ほら…やっと気づいたのか……。」
「ほんともう……やんなっちゃう……。」
白い肌が真っ赤に染まっていた。
「足痛いんだろう?」
「はい……。実は……かなり痛い…んです。」」
「いいよ もってやるよ。家どこ?」
「いいですよ。地下鉄に乗るし……。」慌ててさらに真っ赤になってる。
「地下鉄駅まで行くよ。」
一瞬女子が 困惑した顔になった。
「先輩……。」
「何?」
「やっぱり……足痛い……送ってもらえますか?」
壮介はおかしくて吹き出した。
「素直に最初からそう言えばいいんだって……。」
「私一年の 中村 まどか と言います。」
「そうなんだ。」
まどかは 嬉しそうに微笑んで
「うふふ…今日は自分がおっちょこちょいでよかったって…
本気で思います。」
その表情がとても自然体で 思わず壮介も 好感を持った。
静だけだった壮介の心の中に
まどかというほっこりとした柔らかい存在が住みついてしまった瞬間だった。
大介と静
壮介とまどか
お互いに急速に 接近しはじめる。
荒れ狂う波が 壮介と静をのみ込もうとしていた。