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すれ違う想い~百四十一話~

静とはあれから 本を数冊貸したりして

図書室で会ったりすると 静は律儀に感想を言ってくれたり


静との考え方が自分と似てたり ツボが同じだったりするたびに

自分を認めてくれるような気がして最高に興奮した。



あの日 父親が壮介に話してたことを 壮介への憎しみという形で受け入れた。

母を一人占めされ そしてまたあの頃のような絶望感が大介を

押しつぶそうとした時 静という存在が大介を支えていた。



  なんでも一人占めしやがって……



「静だけは 絶対俺のものにしてやる。」



大介は絶望感を 切り替えて 壮介の宝物を奪ってやる そう誓った。



  俺だってあんな会社なんていらないんだ。

  温かい家庭がほしい……。

  その家庭を一緒に築くのは 価値観の似ている静しかいない。



静も少なくても 大介とこうして話すことを嫌がってはいない。

いや それどころか 静は無防備に大介を受け入れ始めている。

そんな様子に 大介は生きる場所を見つけたような気がした。



「大介。」ある日 父親に名前を呼ばれた。



「この間 取引先で 姪がおまえと仲良くしているとかいう話をきいたぞ。」



大介にアンテナがたった。

ここで静のおじに対して 借りをつくっておくのは大事な作戦だった。



「ああ。ほらうちの学校で一位の子。」



「日高とかいう子か?付き合ってるのか?」



「そんなんじゃないよ。ただ本の貸し借りをしてるだけだけど

頭のいい子で 話をしてると本当 勉強になるんだよね。」



「ほほ~~おまえがそんなに熱く語るとは…意外だな。」



「そんなんじゃないけど 頭のいい人と話すと自分が向上する気がするから…。」



「おまえが向上できる女と付き合うのは 賛成だな。」



意外な言葉が戻ってきて 大介は驚いた。




「いいじゃないか。他の奴にとられないようにさっさとつかまえろ。」




「とうさん どうしたの?」

まさかそんな簡単に 静を受け入れるとは思ってもいなかった。



「ためになる女というのはそういないからな。

取引先にも これからも息子を頼みますって言ったら 喜んでいたぞ。」



思いもよらない展開に大介は驚いていたけれど ある意味かなりの前進な気がする。



一番のネックな父親の力を得て 静のおじ達を味方につければ

あとは静だけだ……。



静にまた喜んでもらえるような 本を選びに書店に行った帰り道

壮介の姿を見つけた。



  あいつ 何してんだ……。


後からつけていくと 弁当屋の裏口から 静が出てきた。



「ごくろうさん。」壮介はそう言うと 静のマフラーを巻きなおした。



「ただいま。」静は体を預けるように 壮介に抱きついた。



それから先を見たくはなかったけれど 見ることによってまたさらに

静を奪ってやるという強い思いが募る気がして しばらく二人をつけて歩く。



手をつないで歩く二人 時折見つめ合ったり 笑いあったり

ふざけたり…そのたびに大介の心は折れそうになる。


自分の知らない静がそこにいた。

静を少しでも自分は知っているみたいな優越感は音を立てて崩れて行く。

そのうち暗がりに二人は入って行った。

小さい公園の雪捨て場となって 大きな山ができていたがその中の死角に消えた。



大介は近くまで静かに近づいて 口から出そうになっている心臓をおさえた。



「壮介…大好き…。」甘い声の静と 濡れた唇の音が聞こえた。



大介はなぜか 異常に興奮している自分に驚いていた。

二人から漏れる息で 今そこで二人が何をしているのか想像を膨らませていた。



愛する女が 一番 憎らしい男と 想像するだけで

殺してやりたくなるのに

その一方で なぜか 激しく興奮する自分がいる。



しばらくそんな二人のやりとりを聞いていて 体の奥底からフツフツと

湧いてくる思い……。




  ぶっこわしてやる・・・・・。



次に湧いてきた決意に 大介はニヤッと笑った。


甘い吐息の漏れてくる方に向かって 固く握った雪玉を思いっきり投げつけて

通り過ぎた。


 

雪玉がぶつかる音がして



「うわ・・・・いってぇ…。」壮介の声



「大丈夫?」心配する静の声を聞きながら 大介の心は晴れ渡った。



今までの恨みを全部 静を奪う事で完結にしてやる。

父親もいらない…会社もいらない



静だけ おまえから奪ってやる

大介は決意を新たに 暗い道を戻って行く・・・・・・。




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