すれ違う想い~百三十九話~
大介は気持ちよく引き受けてくれた。
夕方 私はわき道から大介の車に乗って 家に戻った。
おばが満面の笑みで 玄関に立っていた。
「板垣くん……。」
私が紹介すると 一瞬怪訝な表情をしたけれど
「板垣くん…ね?」と聞き直した。
多分 壮介と似てると感じたんだろう。
「はい。今日はお招きいただいてありがとうございます。」
そう言ってキレイなお辞儀をした。
「いえ…いえ こちらこそいつもお世話になって…。
どうぞ どうぞ……。」
会社の未来がかかっているから おばもものすごいプレッシャーのようだけど
別に大介を接待したからと言って 何かが変わるんだろうか
静はそう思いながら 大介にスリッパを揃えた。
「もうすぐ主人も帰ってくると思うから……
静 お部屋で少しお話でもしてたら?」おばが言った。
部屋にはまだ 壮介も呼んだことがなかったけど
「いいの?」大介が聞いた。
双子だけど全然違うのに どこかがよく似ている。
静はその顔に見とれていた。
「静ちゃん?」
「あ~~うん……ちらかってるけどどうぞ。」
一番先に入れるのが 恋人の壮介じゃなくて大介だったのを
静は罪悪感で一杯だった。
「うわ…女の子の部屋って感じだ。」
大介は部屋に入ってそうさけんだ。
「そんなことないよ。恥ずかしいわ。」
思わず頬が赤らんだ。
大介も緊張している様子で その顔があまりに意外だったので
静は少し笑ってしまった。
「この本って面白いよね。」棚から大介が一冊とりだした。
「そうなの。読んだことある?
けっこうマニアックでしょ…?好きなのこういうの。」
壮介と分かち合いたくて一度貸したけど
「俺はちょっとわかんなかった。」壮介はそう言ったのが
静はとても残念だった。
一緒に感想を言い合いたかったのにって・・・。
その本の話で盛り上がった。
話をしていくうちに好きな作家が一緒だったり 感動のつぼが一緒だったり
大介と話しをしているのが とても楽しく感じた。
「結局さ…言いたいことはここだけど
ここんとこの表現をもっとさ……こうしたら広がるよね。」
「そうなのよ。ここが弱いから今一つ強烈さにかけるのよね。」
エスカレートして二人の声はどんどん大きくなった。
楽しかった。
大介と自分の価値観がとても似てる気がした。
そのうち
「ね~~?喧嘩…してる?」
おばの声
「してないよ~~~。」慌ててそう叫んだ。
「そう?よかった声が大きいからビックリしたの。」
「ごめんなさい。ついつい話 もりあがっちゃって…。」
大介と目が合って思わず吹き出した。
「今度さ 俺のもってる本貸すよ。きっと静ちゃんならわかってくれる気がする。」
「読んでみたいわ。」
壮介とはこんな風に同じ考え方とか なかった気がした。
おじが圭と一緒に帰ってきた。
「そ・・・う・・・あれ・・?」圭も壮介に
似てる大介に一瞬戸惑っていた。
「板垣 大介 くんよ。おねえちゃんのお友達なの。」
「あ そうなんだ。圭です。」圭はニッコリ笑った。
圭の賢さというか 頭の回転が速というか
臨機応変なところには いつも感心した。
「圭くん・・・。大介だよ。よろしくな。」
大介は膝を折って 圭の目線に合わせた。
その夜 五人で楽しく食事をした。
静は
あまりに楽しくて 壮介のことを忘れてしまっていた。