すれ違う想い~百三十八話~
板垣の家の目を盗んで 二人になれる時間を
夢中になって過ごしていたある日のことだった。
「静 ちょっといい?」おばが静を呼びに来た。
最近 経営がうまくいってないというのは 静の耳にも入っていた。
「ごめんね。ちょっと大人の話なの。」おばが静にココアを運んできた。
「はい。」静はおじを見た。
「ちょっと経営がうまく回らなくてさ……。」言いづらそうなおじが気の毒に思えた。
「大学のことなら 私は就職するつもりなの。少しでも
恩返しして 圭の学費だけでも払わせてもらうつもりなので
ここにだけおいてください。おじさんとおばさんのそばにいさせてください。」
思わず焦って喋って頭をさげた。
「いや・・・いや
そんなことでは……。おまえたちはもう俺たちの子供同然だ。
できる限りのことはするつもりなんだ。静は頭がいんだし
圭もできるし 楽しませてもらってる。そんなことは心配しなくていい。」
おじもおばも いつものように優しく微笑んでいる。
「ありがとう。だけど大学には行かない。
就職するから。それはずっと昔から決めてたの。」
「そんな心配はしなくていいのよ。」おばが肩を抱いてくれた。
「静の学校に 板垣くんっているだろう?」
「え?板垣・・・・うんいるよ。」
「話したこととかあるのかい。」
「うん あるけど…どうしたの?」
「ちょっと板垣さんと絡んでる仕事があってそれがうまくいけば
ちょっと落ちこんでいる会社の経営も立て直せそうなんだけど
板垣さんと顔見知りになっておきたいなと…思ってるんだ。」
壮介もその板垣の子供だけれど それは言ってはいけない気がしていた。
「私が 大介くんと何をしたらいいの?」
「いや・・・何かしてくれという事じゃなくて 板垣の社長に
姪がおたくの息子さんと友達だとか…そんなことを言って
橋渡しをしたいなと……。」
「あまり感じのいい人じゃないわ。」
壮介からも父親のことをよく聞かされていたから
静はあまり好きにはなれなかった。
「そうなんだよな。でも今 牛耳ってるのは あの社長なもんだから
なんとか顔みしりになっておきたいなと……それで息子を使って
近づこうかなと思って…。」
「そう……。」静はなんだか不安だった。
「下心みたいで悪いんだけど 早速 うちに遊びに来てもらったり
できないだろうか。なんとか…頼む。
少しだけでいいから…協力してもらえないだろうか。」
二人の様子から 切羽詰まっているのを感じた。
「わかった。」
「ありがとう~~この仕事がうまくいったら
助かるよ。なんとか頼むな。」
二人のホッとした様子に 大変な事を頼まれてしまった
静はそう思った。
しかしこの二人のおかげで 今の生活がある。
どれだけ 助けてもらってきたか・・・・・
「力になれるように 頑張ってみるわ。」
このことは 壮介には言えない・・・・・。
また 傷つけてしまうような気がして……
また壮介に嘘が増えてしまう…
そう考えると静は 気が重くなってきた。