すれ違う想い~百三十五話~
「大学はどこを狙うつもりだ?」
父親が壮介に聞いた。
「俺は……できれば就職したいんですが。」
父親はバカにした顔で俺を見た。
「就職してどうする?
大学に出ないと出世もできないぞ。
おまえは自分のうちの会社で働けばいいい。
慌てることはない。」
「これ以上 ここに世話になるいわれはないので。」
壮介はそう言った。
「ここはおまえの家で 俺は父親だ。
おまえがここにいるのはあたりまえのことだ。」
「ここはあなたと大介の家です。」
「意地を張るな。おまえは俺の息子なんだ。」
「今さら……。それじゃ かあさんが死んだ意味がない。
俺はあなたに愛されなかった それを不憫に思って俺を連れて出て行ってくれた。
働いて…働いて…もしかあさんが一人で出ていっていたら…
こんなことにはならなかったのかもしれない……。
俺のために必死で働いてくれた……。」
「マサヨが死ぬまえに俺に おまえのこと頼むと言い続けていた。
しっかりとした教育をさせて社会で胸を張って生きていける人間にしてくれと。
マサヨとはおまえたちを挟んでは 親ということだ。
おまえには俺のところで しかるべきポジションで働いてもらう。
それがおまえが俺に対してする 恩返しでいいんじゃないか。」
「俺は……自分の道を行きます。
俺のような子にはさせない。 家族だけはしっかり守って行ける人生でありたい。」
「あはは…それはいい。そういう気持ちは大切だ。そのためにも
おまえには 俺の決めたしっかりとした相手をちゃんと合わせてやるから
心配はいらないぞ。」
壮介は立ちあがった。
「俺には将来を約束した人がいます。高校を卒業したらその人と結婚します。
あなたに決められた人生は絶対におくりません。
そういう相手をあてがうなら 大介にしてください。
大介はここの後継者なんだし。」
「若いうちはなどんどん遊べ。本気になるな。
女を利用できる男になれ。真剣に考えるな。名誉と金があれば
なんでもできるんだ。」
「だから だからあんたがそういう考えだから…かあさんは不幸になった。
俺はあんたのような人間にはならない。
静だけがいればいい。他には何もいらないし ほしくない。
名誉も金も…家族が仲良く暮らしていける金さえあれば 何も望まない!!
あんたは…不幸だ。
結局誰からも愛されてはいない。そんな人生ならいらない!!」
壮介はそう言うと書斎を飛び出した。
次の言葉を父親からいわれるのが怖かった。
階段を登ろうとしていた大介と目が合った。
顔の似ているもう一人の自分……。
そのまま壮介はリビングに向かった。
ここから…早く出なければ
父親という人間がそう簡単な男だとは 思えなかった。
自分の利益のためなら なんでもする人間だと……。
俺は絶対あんな人間にはならない。
しかし反面怖かった。
これから何かが起きそうなそんな恐怖感に襲われて行った。