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すれ違う想い~百三十四話~

「いってきます。」



「いってらっしゃいませ。」

おばあちゃんになった松代と母親くらいの年の良子が見送りに出てくる。



「松代さん 見送りは家の中でいいよ。

転んだりしたら大変だからさ。俺には気を使わないで。」


壮介が言うと


「何を言ってますか。マサヨ奥さまの分まで 松代が責任もって壮介ぼっちゃまを

見守らせていただきますから。それにこう見えてもまだまだ!!

後輩の者たちにしっかりと仕込むまでは 気が弱いこと言ってられません!!」



確かに松代は元気一杯

父が老いてきた松代に暇をとらせないのは 多分この存在感で

少しは人間らしさも見えた。


松代が一人で切り盛りしてきた板垣家には 短時間のお手伝いと 通しのお手伝いが

二人 松代の厳しいゲキが飛んでいた。



母が亡くなって 壮介は強制的に板垣家に戻された。



「かあさんがおまえを頼むと俺に頭を下げてきた。」父はそう言った。



それが母の望んだことなら 一人立ちするまでここにいるしかないと思った。



同じような顔をした大介とは お互い避けるように過ごしている。

たまに洋一が来て 嫌味の一言二言残してはいくが

壮介が板垣に戻ったことであまり言えないのか 不完全燃焼している様子だった。




自分の居場所があるだけいいが 困ったことが一つあった。

静となかなか会えないことだった。


二人っきりの時間がなくて

抱き合うこともできなかった。



話すことはできても 愛し合う場所がなかった。


ここに連れてくるわけにもいかず……

体だけの関係ではないはずなのに 少しづつ距離が広がって行く気がした。


しばらく歩いていると



「そーくーん!!」


可愛い声がして 一気に壮介は心が和んだ。



「おはよう 圭!!」


圭は壮介の家の近くの 幼稚園に通っていた。



「おはよう 壮介。」静が微笑む。



静は毎朝 少し早目に圭を送りに来ていた。 途中で壮介と合流して

少しの時間でも二人でいたいそう思っていた。



圭が幼稚園であったことを一生懸命に壮介に伝える。



「そっか~~えらいな~~。」圭を見ているとすっかり自分が

親になっているような気がした。



圭が愛しくて仕方がなかった。

母を失い 涙にくれていた簡単な葬式の時 圭が小さな体で壮介を

抱きしめて


「泣いちゃダメ。」そう言って小さな手で

壮介の頭を撫ぜた。


それがおかしくて…壮介は吹き出した。



「ダメ。男は泣いちゃダメってそーちゃん言ったでしょ?」


壮介の目を見て 圭がそう諭した。



「あ…。そうだったね。もう泣かないよ。」


壮介は圭を抱きしめて もう…泣かないと誓ったのだった。



小さい手 手が壮介の手をしっかりと握る。

三人で歩く道が 壮介の一番幸せな時間になっていた。

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