大切なもの~百三十三話~
マサヨは経験したことのない
恐怖の中にいた。
死と隣り合わせなのは
自分でもわかっていた。
ふと目を開けるとそこに強がいた。
「大丈夫か?」
「あ…すみません……。わざわざ
およびして……。」
世界で一番憎らしい男……
「こんなことになってしまって…あなたに頼ることだけは
したくなかったのに……残念です。」
「こんな時だ……。そう言うな。
壮介のことだろう。俺もあいつの親だからな
安心しろ。悪いようにはしない。」
「あなたの束縛から壮介は守りたかったのに……。」
「仕方ないだろう。金銭的なことはまかしておけ。
おまえはゆっくり体を休めて早く元気になりなさい。」
「あなた…大介と壮介を頼みますね。
大切な子供ですから。愛してあげて下さいね。
お願いします。どうか……。」
「おまえは早く体をなおすことを考えろ。」
「ありがとう…ございます……。」
強はそう言い残して出て行った。
今まで背負ってきた責任から解放された気がした。
元気な時なら絶対にこんなことには ならなかっただろう。
でも もう自分は子供たちに何もしてやれない そう感じていた。
ホッとした。
壮介にも大介にも会って話ができたし
強にふたりのことをお願いもできたし……。
これでいつ…お迎えがきても
子供たちのそれぞれの人生が幸多かれと……
そう願いながら眠りについた。
息苦しさに目がかすかに開いた。
壮介が泣いている。
「かあさん 俺を一人にしないで……かあさん……かあさん……。」
一瞬小さかった頃の壮介が頭の中に蘇ってきた。
「おかーたん……おかーたん……」
壮介はいつもマサヨを追って泣いていた。
反対に大介はそんな壮介を 離れたところで冷めた目で見ていた。
「いかないで・・・・俺がかあさんを幸せにしてやるから
それまで…元気でいてくれよ……かあさん!!」
ごめんね 壮介
ごめんね 大介
最後まで母としての責任を果たせなかった……。
すごく長い距離を走らされて マサヨはひどく疲れていた。
もう…もう…疲れた…休ませて……
どこまで走ったらゴールは見えるのか……。
その時明るい光がどんどん広がって迫ってきた。
ゴールだ・・・・。
マサヨはその光に 飛び込んで行った。