表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
132/190

大切なもの~百三十二話~

「かあさん 遅くなってごめんよ。」


補習を終えて 壮介はまっすぐ母の元へ


マサヨは優しく微笑んだ。



「壮介…私の自慢の息子。」



「わかってるって。」



「ごめんね おかあさん こんな体に…なってこれから

どうしたらいいのか……。」



「今まで 働きすぎたんだって。

俺だって静みたいに生きればいいんだよ。バイトしようと思ってる。

ちゃんと両立させるから…安心して。」




「壮介……おとうさんの…とこに…お願いしよ……。」



「なんで?」



「約束はしてたんだもん…お願いして……。

壮介をきちんと教育するのが…私の夢だった。

私が至らなくて 壮介と二人で見てきた夢が……こんな…

形で壊れてしまう……死んでも…死にきれない……。」



マサヨは涙を流した。



「かあさん…泣くなよ……。死ぬなんて言うな。

俺を一人にしないでくれよ。」



子供のように心細くなった。



「おとうさんに…来るように…話して……。

あの人の力を借りないことには……悔しいけど……。

ここのこともあるし……。

ああ・…情けない……どうしてこんなことに……。」



点滴だらけの手で顔を覆った。



「ごめんね…壮介…ほんと…許してね……。

ダメなおかあさんだけど…壮介への愛は誰にも負けない……。

あなたの幸せだけを…祈ってるから……。

愛する人と優しい家庭を…作って

子供に一杯愛をあげてね……。寂しい子にしちゃダメよ。」



「おかしなこと言うなって…。

そんな遺言みたいで…やめてくれよ かあさん……。」



壮介の声が震えた。



「俺だって…世界一のかあさんの息子に生まれて

幸せだよ……たっぷり愛をもらって……だから…もう少ししたら

俺がかあさんを世界一幸せなばあちゃんにするから……

待ってろって……優しい家庭の中には かあちゃんもいるんだからな。」



「壮介……。ありがとう。

親として最高の言葉をもらったわ……。

ありがとう…私の壮介……。」



病室を出て 電話を探した。


複雑な思いだった……あれだけ頼ることをしたくなかった母親が

父を呼んでくれと言った。



「私も…あの人に言いたいこと言わなきゃ…死にきれないわ…。」



公衆電話から電話をかける。

お手伝いの松代の声がなつかしかった。



少しして強が出た。


「もしもし 壮介か?俺に電話してくるなんてどうした?」



「かあさんが…あなたに会いたいと言ってます。

今日来てくれって……行ってやってください。」




病院の名前と病室を告げて 電話を切った。



頭の中でいろいろな事を考えた。

考えれば考えるほど不安は大きくなる。

アパートの前に立った時 玄関の前に静が座って眠っていた。



「静・・・?」


急いで静を起こすと体中が冷え切っていた。


「おかえりなさい……。」



「何してんだよ こんなに冷たくなって……。」



「今日は家にはバイトって言ったから…壮介と一緒にいたいって思ったの。」



慌てて鍵を開けて 玄関の中に入った。

冷え切った静を強く抱きしめた。


「壮介・・・・・・?」



「今…静に会えて本当感動してる…。」



「よかった。私も感動してる…。ずっとこうしてもらえなかったから……。」



壮介の心は急に熱くなった。

冷たい静を 温めてやりたい……。

熱い唇が静の唇に触れた。


そのまま 二人は玄関に倒れ込んだ。


「愛してるよ 静……。

俺の家族になってくれるか?」



「もちろんよ……。二人なら絶対幸せになれるから……。」



静が溶けだしそうになるまで 時間はかからなかった。

温かくなった静を 優しく抱きしめた。



「俺がいつもこうしておまえを守ってやるから……。」



二人は見つめ合って 微笑み合って キスを交わした。 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ