大切なもの~百三十一話~
「女?」そう言いながら 強が入ってきた。
「親父・・・・大丈夫だから。」大介は静に小さくそう言った。
「おかえりなさい。」大介
「おじゃましています。日高です。」静はまっすぐに顔をあげて挨拶した。
大介は静の毅然とした態度にまた感動していた。
強は上から下までじっと静を観察している様子だったが
「いらっしゃい。大介のまさか…彼女とか?」
強が静を見る目が 大介には許せなかった。
静が汚れてしまう。
「いいえ。友人です。」静がきっぱりと言った。
悲しいくらいにハッキリと・・・・。
強が笑った。
「おじょうさん ハッキリしてるね。」
「私 そろそろ帰ります。おじゃまいたしました。」
静が頭を下げた時
「日高…日高さんと言えば 学年トップの日高さんか?」
困ったように静が大介を見た。
「そうだよ。いつも俺が勝てない日高さん。」
「あ あの日高さん……。こんなキレイな人だとは思ってなかったよ。
塾とか家庭教師とかつけているのかい?」
「いいえ。うちにはそんな余裕はないんです。」
「それでも学年一位の才女か。すごいな。」
強が言った。
「それしか趣味が今までなかったものですから。」
静は美しく微笑んだ。
「それじゃ 板垣くんまた明日ね。」
「あ・・・送って行くよ。」
「大丈夫よ。方向音痴じゃないから。」
そう言うと静は出て行った。
「大介……まだ女にうつつを抜かすのは早いな。
おまえはこれから大学受験もあるし あの娘を抜かせるように
勉強に力を入れろ。」
大介はムッときていた。
「おまえの女は俺が見つけてやるから どこの馬の骨かわからない女は
後で面倒なことになるからな。」
「自分のことは自分でやりますから。」
もしかしたら初めてだった。
父親に言い返したのは。
「おまえ?まさか……本気って感じか?」
「そんなことまで言われたくないです。」
「とにかくおまえは俺の言うとおりにしておけ。」
「おとうさんだって 女の見る目はあるんですか?」
「なんだと?」
「離婚したくせに・・・・・。」思わず口ばしったのは
今まで大介がずっと恨んでいたことなのかもしれない。
母の苦しそうな顔が浮かんだ。
母だって父親の犠牲になって 今 ああして苦しんでいる。
いろんな柵があっても 自分を産んだ母親だった。
「あれとのことは…いろいろ事情があったんだ。」
さすがに強も口ごもっているから
「俺たちは おとうさんの被害者ですね。」と言った。
「生意気なことを言うな!!」
父親の手が大介の頭を 思いっきり殴った。
今まで逆らう事をしなかった大介だった。
「あなたのおかげで 俺もかあさんも……壮介だって…不幸になっている。
あなたは人間として 父親として 男として…最低な人ですね。」
悔しかったけど泣くものかと我慢した。
「おぼっちゃま!!」松代が飛んできて二人の間に入ってきた。
父親への憎悪が溢れだした。