大切なもの~百三十話~
「おじゃまします。」
大きな家だった。
静は大介についてきたことを後悔したけど
流れ的には断れずお手伝いさんが出したスリッパをはいた。
「すごい家ね。」静はまるで夢の世界でみる家具や調度品に目を奪われた。
「俺にとっては檻のようなとこだよ。」
「え?」
「楽しいこと一つない家……笑い声も聞いたことない家……。」
「うちだってそうよ。
だけどこんな大きな家で あたり前以上の生活ができて……
多少つまらなくても贅沢ってものよ。私の檻なんて…ほんと息をするのも
辛いくらいだったもの。」
静の顔が曇った。
「私の母親って人は母じゃなくて女だったから……
耳をふさいだって狭い家の中で…新しい男を引っ張り込んでは 女の声を聞かされて…
私はその男たちにいつ…母と同じことをされるのかという
恐怖で生きた心地もしなかったもの。」
「今は?」
「今はおばの家で生活させてもらってる。
本当に幸せよ。おじとおばには感謝で一杯。大人になったら
お返ししなくちゃ……。」
「そうなんだ。よかったね。
その安心感で静ちゃん きれいになったんだね。」
思いがけない大介の言葉に 頬赤くなった。
「きれいなんて言ってもらえてうれしいわ。照れちゃう。ウフフ……」
静が嬉しそうに笑ったから 大介もうれしくなった。
「静ちゃんの笑顔って最高だね。
守ってあげたくなる……。」
「やだ~~あははは~~」笑いでごまかされてしまったなと大介は思ったけど
絶対 静は 俺のものにする
そう固く決意したのだった。
「今日のことは………。」静の言葉に
「わかってるって…誰にも言わない。特に壮介には……ね?」
「ごめんね。壮介がこのこと知ったらすごく傷つくと思うの。」
「静ちゃんが秘密を持ったこと?」
「え?」
「俺との秘密を持ったこと。」
「うん…それもあるけど……。壮介にはおかあさんが一番だから……。
あなたに会いたがったっていうことは
壮介にとっては一番キツイと思うの。」
「あいつはなんでも一人占めしちゃうからさ……。
かあさんも…静ちゃんも……ね……。」
「何言ってんの。」静が笑った。
「その笑顔も壮介一人占めか~~。」
「え?」
「壮介とつきあっているんでしょ?」
「あ……やだ…ちょっと…あの……。」しどろもどろな静。
めちゃめちゃ可愛くて嫉妬する。
「言わないよ。安心して。」
大介は自分が今 羊の顔をしていることを知っている。
「だけどたまにはその笑顔 俺にも向けてほしいな。
これからも友達でいてくれる?」」
「もちろん…こちらこそ…友達でいてほしいわ。」
まずは前進・・・・・。
これからは勉強以外に 考えることができた。
壮介から静を奪う楽しみ
「壮介も板垣くんのこういうところ知ってくれたら……いいな。」
「俺と壮介は交うことはないと思うよ。
根が深すぎてさ……。こうしてたまに俺にも会ってくれる?
俺は気の合う友人とかっていないしさ…家だってこんなんだし…。
静ちゃんが一番の友達でいてくれたら嬉しい…なんて 迷惑かな。」
「そんなことないよ。」
大介は静に握手を求めた。
その手を静が握って 目を合わせた時だった。
「大介に 友達が来てるのか?」
強の声がして 大介は静の手を離した。