大切なもの~百二十八話~
「え?かあさんが・・・?」
次の日 図書室で会った大介に 静は会いに行くように言った。
大介はとても複雑な表情を見せたが
「今さら・・・・俺を捨てた女に会ったところで……。
死ぬ前にすっきりさせたいとか 天国に行ったら地獄におとされたくないとか?」
大介は冷たい横顔に変わった。
「会いたがってたの。そう思いたくないけど
おばさん容態が悪いから…会っておいた方が絶対にいいわ。」
「悪いって・・・・?
いとこが壮介が休んでるって言ってたけど
そんなに悪いのか?」
「壮介はおかあさんがいつ自分のそばから
いなくなってしまう恐怖感と戦っているわ・・・・。」
「ふう~ん。
だけど俺が行ったらアイツいやなんじゃねーの?」
「きっとね。だから壮介には言わない方がいいから。
私と板垣くんだけの秘密にしておいて。」
秘密か……。悪くない……。
静と壮介の間に秘密を持たせる。
それも絶対に受け入れないだろう自分との秘密……。
大介はそれもありか・・・と急に楽しくなった。
「わかったよ。静ちゃんがうまくセッティングしてくれれば
それに従うから。」
「ほんと?私 おばさんにはお世話になったの。
おばさんが元気になったら 壮介も元気になるから…。」
静は祈るように手を合わせた。
その美しさに 大介の嫉妬は荒れ狂う。
絶対 静を奪ってやるんだ。
俺から母親を奪った…その俺の悲しさをアイツにも知らしめてやる。
ひさしぶりに学校に出てきた壮介が放課後 補習になることを知って
静は急いで待ち合わせ場所に走った。
コンビニの前にはいつもの大介のお迎え車が停まっていた。
「乗って。」後部座席が開いた。
車に乗り込んで 驚いた。
運転席としきられた壁には テレビがついている。
「すごい広いのね。」静は驚いた、
「でも…若いんだから少しは自分の足で歩かないと…体に悪いと思うわ。」
「俺 あの人混みとかほんとダメ……吐き気する。
いろんな臭いがするだろ…。好きじゃないヤツの匂い嗅ぐのは
絶対無理無理……。」
大介はそう言うと静に笑顔を向けた。
いつも笑っていたらいいのに……
静は自分にしか見せないだろう大介の笑顔を見て
こんなにチャーミングに笑えるのに
そう思った。
「学校でももっとそんな顔見せるといいのに。すごく素敵よ。」
「え・・・?俺…笑うのって静ちゃんの前だけだな…。そう言えば……。
いいよ俺のこんなとこは 静ちゃん一人が知ってくれてればいい。」
そう言うと前を向いた。
静は思わず恥ずかしくなって下を向いた。
「静ちゃんの…そういうとこ すっごく可愛いんだ。」
「やだ。可愛くないから…もうからかわないで。」
静は大介を何度も何度も 叩いた。
「あはは・・・・」大介は楽しくて声をあげて笑った。
「や~~もう~~!!」静が愛おしかった。
二人だけの秘密をもって大介は 静との仲が前進しているのを確信していた。