大切なもの~百二十七話~
「思い残した……ことばっかり…壮介のこ…とも
大介の…ことも……。」
マサヨの苦しい息の中で
伝えようとする言葉を必死に静は聞きとっていた。
「おばさん…私 今大介くんとけっこう話をしてるの。
もしおばさんが会いたいなら…私…大介くん連れてくるよ。」
静がそう言うと
マサヨは静の手を強く握った。
「お願い…できる?もう…なんだか時間が…ない…気がするの。」
「そんなこと言わないで おばさん。
壮介くんのためにも まだまだ元気でいて……。」
静は涙が溢れ出て来た。
「静ちゃん……壮介はいい子よ……。」
「わかってます。私のことも圭のことも大切にしてくれます。」
「よろしく…ね…。大介のことも…よろしく……。」
病室に壮介が戻ってきた。
「お弁当 作ってきたの。ごはん食べてないでしょ?」
「あ・・・忘れてたよ。」壮介は反対側のマサヨの手を握った。
「壮介…せっかくだから…食べてきなさ…い……。
おかあさんなら…まだまだ…大丈夫……。」
医者と看護師が入ってきた。
「しばらくいるから安心してご飯食べてきなさい。」
若い医者はそう言った。
「おねがいします。」壮介は頭を下げた。
面会室には誰もいなかった。
「圭も行きたがったんだけど おばさんにお願いしてきた。
壮介に会いたいって。」静が言うと
壮介がすごく優しい笑顔に変わった。
「圭もずい分話すようになったよな。
俺のこと壮介って呼び捨てなのはいかがなものだけどな。」
静はお弁当を広げて 壮介の口に卵焼きを入れてやった。
「うめ・・・・・。」壮介がみるみるうちに泣き顔に変わった。
「壮介・・・?」
「ごめん…かあさんの卵焼きに・・・味がすごく似てるから……。」
「おばさんが元気になるまで 壮介が食べたい時は私が 作るから……
一緒に応援する…だから一人で泣かないで……。」
静も涙が溢れた。
「うん…うんサンキュー……。」
壮介は泣き笑いしながら 弁当のおかずを口に頬張った。
「静・・・すげー美味いよ。」
静はそんな壮介を 自分が絶対守るんだと誓った。