大人の階段~百二十五話~
それから学校で会うと気軽に大介は声をかけてきた。
最初は 自分とは違う雲の上の人だと静は思っていた、
中学校の頃の大介は できないことがない子で そして金持ちで。
時期社長だと噂されている大介は
生徒会でも中心にたって議会を進めて行く様子は圧巻だった。
自分にもってないものをたくさんもっている大介は 雲の上の人
静はそう思ってたけれど 気さくな笑顔で
近づいてくる大介はそんなバリアは取り去っていた。
壮介がきっとイヤな思いをするだろうと
なるべく壮介の前では 声をかけてほしくなかった。
不思議なことに大介は 静が一人の時だけ声をかけてきて
すれちがうときだけ 静に微笑んでくれた。
少しだけ壮介を裏切ってしまっているような気がしていた。
そんなある日のことだった。
三時間目の授業中に 教室のドアがノックされて 職員室の先生が
「角谷 今 病院から連絡があって…おかあさんが倒れたそうだ。
すごに帰り支度をして一度職員室に寄りなさい。送って行くから。」
教室に緊張感が走った。
壮介は立ちあがったまま茫然としていた。
「角谷 急ぎなさい!!」
「先生?そんなに…悪いんですか……。」壮介は棒読みのようにそう言った。
「とにかく急いでと病院で言われてるから……。」
「今朝…具合が…悪そうだった…から…
仕事……変わってもらって…って言ったけど……。」
壮介はブツブツと一人ごとのように言った。
静は 壮介の教科書を急いでカバンに詰め込んだ。
「壮介!!しっかりしなさいよ!!」思わず叫んだ。
「あ・・・どうしよ。かあさん…大丈夫だよね…。」
「先生 私も一緒に行かせてください。角谷くんパニックみたいだから。」
静の口調に引きずられたように先生が
「それじゃ頼む。」と言った。
「ほら 行くわよ。しっかりしなさいよ。」静が厳しく言い放った。
壮介は急に我に返ったようにカバンを持って教室を
飛び出した。
「壮介!!」静が呼んだ。
「大丈夫。俺一人で……サンキューな静。」壮介はそう言うと階段を降りて行った。
壮介を見送って
静は胸騒ぎを覚えた。
「大丈夫よね。絶対大丈夫よ。」静は何度もそう言った。
隣の教室に目をやると 大介と目が合った。
大介には 言わなくていいのだろうか。
大介はニッコリ笑い返した。
静は複雑な気持ちになった。
おばさんは……きっときっと…大丈夫だよ……。
その日一日 何も手につかなかった。
壮介からは連絡が来ないまま 朝を迎えた。
廊下であった担任に聞いてみた。
「角谷は今日は おかあさんについているといってたから休みだよ。」
「どうなんですか?」恐る恐る尋ねた。
担任は複雑な顔をしていた。