大人の階段~百二十四話~
「双子だしね。」他人には言ったことのない言葉だった。
「初めて壮介くんに会った時 誰かに似てるって
ずっと思ってたの。それは板垣くんだったのね。
今思うと なるほどなって思っちゃうわ。」
静が悪戯っぽく微笑んだ。
大介の胸が今まで感じたことのない感情を覚えていた。
最初は壮介から奪うだけの気持ちからだった。
だけど今は 静の表情一つ一つに 脈拍がはやくなる。
「板垣くんも…辛かったでしょう。
おかあさんがいなくなって……。すごく素敵な人だから…おばさん……。
子供は大人に振りまわされて生きていかなきゃならないから……
なんでこんな人生なんだとのろったり嘆いたり……
私なんて何度も死にたいって思ったわ。」
「日高さんが?」
「板垣くんの眼中にはなかっただろうけどずっと
人に蔑まされて生きてきたから……。あたりまえのことすらできなかった。
毎日お風呂に入るとか みんなみたいに遊んだり テレビを見たり
ゲームなんてしたこともなかったから
今 あたりまえに近づけて…毎日ちゃんとお風呂に入れて
ご飯も食べて テレビも見れる……。
だからこうして友達もできたし…板垣くんが私に話かけてきた。」
悪戯っぽい目で大介を見上げた。
「あ…いやそんなつもりはなかったんだけど……。」
大介は慌てた。
「あ…そんなそんな冗談だから~~うふふ……。」
静が笑った。大介も嬉しくなって笑った。
「板垣くんって結構気さくな人なのね。こんなに話せる人だとは
思ってなかったわ。やっぱ双子ね……。」
「俺とアイツって似てる?」
「最近 激似してきたよ。みんな噂してるもの。
二人とも無愛想だし……話しかけにくいし……。」
「日高さんとは壮介よく話すんだ。」
少し困った表情を浮かべたが静は
「私の一番最初の友達だったの。大切な人………。
あの人がいなかったら…自殺してたかもしれない……。」
自殺か……。
「境遇も少し似てたし 母子家庭だけね……。
私の母親は最低だったけど……。壮介くんのおかあさんは素敵な人よ。
優しくて温かくて…何より壮介くんを一番に愛してるから……。」
そう言いかけて静は口をおさえた。
「ごめんね…。私ったら…板垣くんのことも考えず
ベラベラと……でもおとうさんが愛してくれるでしょ?お金持ちだし
困ることもないし……私たちは生きて行くのも結構我慢の連続だから……。」
チャイムが鳴った。
「あ…次は体育だね。急がなくちゃ。」
静が立ち上がった。
「また……また 話しかけていい?」
大介が慌てて声をかけた。
「もちろんよ。じゃあ……。」
静が図書室を出て行った。
シャンプーのいい香りが残っていた。
大介は完全に 静に恋をしたと 思った。