大人の階段~百二十三話~
一年生の最後のテストで 大介は学年一位になった。
負けたくない一心だった。
父親まで奪われたら 自分はどうしたらいいんだろう
父親に愛されてるとは思ったことはない……。ただ都合のいいように利用されているだけ。
外では冷酷な父親だけど 女の前では 猫のように喉を鳴らしている。
女って怖いよな……。
自分は父親のような情けない男にはなりたくない そう思わされた。
静を越えることが とりあえず作戦に入っていたから
大介は必死に勉強をした。
休み時間 図書室で静は読書をしているのが日課だった。
学校では壮介と付き合っていることを 隠しているのだろう。
二人の接点は学校では まったくなかった。
「日高さん 何読んでるの?」静に声をかけるのは中学以来だった。
「あ…うん…家ではなかなか集中できないから…ここで読んでるの。」
静は一瞬 大介を見て目をそらした。
「今回は俺が勝ったよ。」
「あ…そうだったわね。おめでとう。
次は私も負けないように頑張らなきゃ。」
「それは困るよ。俺 ほんと必死だったんだぜ。
日高さんの頭の中 すごすぎるよ。どうやって勉強してるんだ?
塾とかも行ってないんだろ?」
「うん……。ほら別にやることもないから…教科書読んでた…みたいな感じ。」
「そうなんだ。
俺なんて塾行って 家教つけて それでも日高さんには勝てないんだから
落ちこんじゃうよ・・・・。」
静は顔をあげて やっと大介と目を合わせた。
「私はずっとすごいと思ってたわ。
板垣くんのように 生徒会で頑張ってて 人をまとめて
そのオーラは他の人にはないもの。」
以前 静と話した時 一度も静は大介と目を合わせなかった。
でも今は キラキラと光る瞳が大介を見つめている。
「変わったね 日高さん。」
「あの頃はちょっと…いろいろ大変だったから……。
今は天国みたいで 幸せすぎて怖いくらい……。」
静が幸せそうに微笑んで 大介の胸がキュンと音とたてた。
な…なんだ…この息苦しさ……
「あたりまえのことを あたりまえにできるって幸せなことなのね。
あの頃は地獄だったけど…あの地獄があったから
今のこの 幸せを感じられるのかもしれない……。
あ…ごめんなさい……こんな話 板垣くんにしても…
なんだか…ほんと何言ってんだか…私……。」
静は頬を赤らめて 立ちあがった。
「俺ら子供はさ…生きて行く背景を選べないからね。
早くおとなになって自分の足で自分の思うままに生きて行きたいよね。」
静が大介を振り返った。
「板垣くんもそう思うの?
私もそう思ってた。 私も早く大人になりたい。
誰にも迷惑かけないで生きて行きたいわ。それには今から計画立てて行かないと…。」
静の目がキラキラ輝いている。
「あ…また しゃべりすぎちゃった。
ついつい板垣くんには 口数が多くなっちゃう…。
やっぱり…似て……」と言いかけて静が言葉を止めた。
「似てるって・・・?」
「あ……あの……。」静が完全に真っ白になっている。
その様子も また可愛いと思った。
「壮介のこと?そうか似てるか?」
好感を持ってもらうために無理して大介は微笑んだ。