大人の階段~百二十二話~
壮介に嫉妬が膨らむ。
母を一人占めして そしてさらに父にまで期待された。
俺はいったい何なんだ?
大介は怒りで一杯だった。辛くても父のそばにいれば
次期社長になって 好きなように会社を動かせる それだけが楽しみだった。
ふざけんな……。
ここのとこ壮介にずっと抜かされていたのも
父はお見通しだったと知って 自分が情けなくなった。
見離される
そんな恐怖感で大介は押しつぶされそうだった。
母の愛情を一身に受け 父からも期待され 壮介は欲張りだと
大介はひさしぶりにベットに入って泣いた。
アイツだけには絶対負けたくない
朝にはまたその思いだけを強くした。
洋一の話では 壮介は 日高 静のことで
強烈に怒ったと聞いた。
それまでそんなに気にしていなかった 静に 注目してみた。
確かに別人のように 輝いている静だった。
脂っぽくベタついていた髪の毛は 黒い艶のある思わず触れてみたくなるくらいの
美しい髪の毛になっていた。
廊下ですれ違うとシャンプーの香りがした。
そしてどうしてかずっと 大介と学力を張りあってきた知性のある表情は
その辺の女子よりずば抜けて オーラーを発している。
完全下校の日 迎えの車を頼まず 普通に帰ることにした。
昔もこうして 静の後をつけて帰ったことがあったと おかしくなった。
日高 静という女を 知りたい あの時もそうだった。
後から気がつかれないように
ついて歩いていると 学校から離れた交差点の前に 壮介が立っていた。
静は 跳ねるようにして壮介の元に駆け寄って 寄り添った。
!?
次の瞬間 二人は自然に手をつなぎ 交差点を渡った。
アイツら……付き合ってんのか……?
静に対して芽生えた 興味が 壮介によって奪われた気がした。
洋一を殴った時も 静のことだった。
二人がそういう関係なら ありえないことではない。
好きな女を守るための 暴力……。
しばらくそんな楽しそうに見つめ合う 二人を見ながら
ついて行くことにした。
不思議なことに そんな二人を見ているうちに
大介の中で何かが大きくなりだしていた。
やばいだろ……。
いや……アイツに思い知らせろ。
欲しいもの全部 手に入ると思ったらそれは違うって
壮介と見つめ合って微笑む静を 複雑な想いで見ていた。
静が…欲しいな……。
自分によく似たもう一人の壮介を 自分にすり替える。
最近 遅咲きの自分が成長してきて 嫌でも よく似てきた双子の兄弟
静の美しい黒髪が揺れる。
壮介から…奪え……。
大介の気持ちが 決まった。
弁当屋の前で名残惜しそうにしてる 二人を見ながら
「何でも自分のものにするなよ。壮介……。」
大介はそうつぶやいていた。