大人の階段~百ニ十一話~
「それも親戚同士で……何を考えてんだ?」
「すみません…。息子にもよく言い聞かせます。」
洋一の母親は頭を何度も下げた。
「まったく……。おまえたちの教育の悪さにはあきれるな。」
マサヨはカチンときた。
「そちらの息子さんは どうかわかりませんけどね
うちの壮介への教育はしっかりさせてもらってます。
こんなことは初めてです。先生のお話では 洋一くんのクラスメートへの
暴言に壮介が怒ったと言ってました。
暴力はいいことではないのは 壮介はよくわかってますけど
よっぽどだったんじゃないですか?」
マサヨは自分でも驚くほど よく言いかえしたと思った。
「壮介……おまえ逞しくなったな。」
強は急に話題を変えた。
「大介を抜かしたんだとか?やっぱり俺の子だな。」
強の言葉に マサヨは怒り心頭だったが
「俺はあなたの子供ではありません。」壮介がキッパリと言い放った。
「あははは・・・・」強が高笑いをして壮介の肩を叩いた。
「おまえのその根性の入ったプライドの高さがいいな。
やればできるんだ。おまえは。
いつまでもそこで 貧乏な暮らしをしていないで 俺のところへ
戻って来い 教育しておまえを俺の跡取りにしてもいいと思ってるんだ。」
「あなた…大介はどうするんですか?」マサヨは急に不安になった。
「大介がそんなこと知ったら傷つくじゃないですか?
あなたに言われるがままに必死にやりたいこともしないで 勉強してきたんですよ?
気まぐれにおかしなこと言わないで下さい!!
もういいなら 壮介 帰りましょう。」
マサヨが立ち上がると 壮介も立ち上がった。
「またゆっくり話をしよう 壮介。」
「それはないです。俺はあなたの子供ではないんですから。
あなたの自由にはなりませんから。」
教室を出た時 マサヨはとても満足だった。
「かあさん ごめんね。俺のせいでイヤな思いされてしまった。」
「そんなことないわ。おかあさんは嬉しいの。
あなたが本当に逞しく成長してくれて それもあの人の目のまえで
それを証明してくれて…本当に誇らしいわ。」
「そう言ってくれたら安心するけど……。」
「それにしても洋一くんは 昔から卑怯な子だったけど
あのままなのね。彼の父親も強にずい分おさえ付けられて卑屈だったから
息子もそっくりに育ってしまって……
静ちゃんを助けたんでしょう?えらかったね壮介。
ただ暴力だけは……わかってるでしょうから 何も言わないけど……
自分が間違ってなくても不利になってしまうから……。」
「わかったよ。今回は俺も悪かった。
アイツ ずっと腹立ってたからさ……。」
マサヨは壮介の耳元で小さな声で
「わかるわかる。」
二人で顔を見合わせて 爆笑した。
「今日は 何か美味しいものでも食べて帰ろうよ。」
「いいね~~じゃあ…ラーメンで~~。」壮介が笑った。
「ラーメン?もういつもいつもラーメンなんだから。」
「いいよ。無駄使いできないだろ。
俺も静みたいにバイトしようかな。」
「まだ大丈夫よ。これは私のプライドだから。
大学に行くようになったら よろしくね。」
そんな二人のやりとりを 少し離れたところから大介が見ていた。
かあさん……。
壮介の腕をとって歩く 母の姿を見て複雑な思いが交差していた。
自分には見せなかった母の笑顔
いつから母親との距離が広がって行ったんだろう。
「大介。」ふり向くと洋一が立っていた。
「どうした?その顔・・・・。」
「壮介に殴られた。」洋一は唇の切れたところをおさえた。
「停学か?」
「おじさんが握りつぶした感じかな。」
また親父が出てきたんだ……。
「おじさん 壮介に 跡取りになれって言ってたぞ。」
洋一の言葉に大介は衝撃を受けた。
「何・・・・?それ・・・・。」
「壮介 調子こきやがって……。」洋一の顔が歪んでいた。