大人の階段~百二十話~
相談室のドアを開ける時 マサヨは大きく息をした。
休みで家にいたマサヨにかかってきた電話は
「壮介くんが暴力事件を起こしたので すぐに学校に来て下さい。」
という担任からの電話だった。
暴力って……
壮介のような優しい子供が 暴力事件を起こすなんて
考えられなかった。
世間が壮介を責めても母親の私だけは
彼の味方でいよう
大きく息を吐いて ドアを開けた。
壮介は申し訳なさそうな顔でマサヨを見ていた。
背中越しに座っている母親らしき女性がふり向いた時
マサヨは心臓が止まりそうになった。
「あ・・・・あなたは………。」
元夫の弟の妻で 何度も面識はあったけれど
あまり好きな家族ではなかった。
まさか………
「おかあさんどうぞ お座り下さい。」
担任が手を指した場所に マサヨは立った。
「おひさしぶりね。マサヨさん。」
「おひさしぶり。」
「こんな形で会えるなんて…思ってもなかったわ。」
洋一の妻は 上から下をバカにしたような顔で見ていた。
すっかりみすぼらしくなったマサヨにバカにしたように
「なんだか 人違いみたいに変わったわね。
苦労なさってるんでしょ?たまにスーパーで見かけてたんだけど
声をかけるのもためらっちゃって……。」
「仕事中だから…声かけられても困るのよ。
これからもそうして。」と拳を握りしめた。
「よろしいですか?」担任が口をはさんだ。
マサヨは座った。
洋一の口元が切れて 青くなっていた。
いきさつを聞きながら マサヨは壮介は間違ってないとおもったけれど
どんなことがあっても暴力はダメだと思ったから
「暴力に出たことは絶対にいけないことですので母親として
息子にはしっかり言い聞かせます。
でも…壮介をそこまで怒らせた洋一くんには
問題はないのですか?息子は嫌がらせを受けていたクラスメートを
助けただけですよね。先生の報告はそうとれます。」
「確かに洋一くんにも問題はありますので 今回はお互いに注意ということで
保護者の方に立ち会っていただくために来ていただきました。」
マサヨは
「ありがとうございます。」担任に頭を下げた。
「ちょっと待ってください。」立ちあがったのは 洋一の母親。
「納得いきません。息子はケガしたんですよ。
いくらきっかけがうちだとしても すぐ手が出るじゃ怖くて学校に通わせられませんよ。
こんな進学校で暴力なんて…外に知れたら大変ですよ。」
その時だった校長と一緒に入ってきたのは 強だった。
マサヨと壮介が驚いていると 校長が
「PTA会長も来てくださったので しっかりと話しあいましょう。」
校長は担任に手招きをして 一度退席した。
強はイスに深く腰かけて 大きくため息をついた。
「おまえたちは 俺の顔に泥を塗るつもりか?」
洋一と洋一の母親は小さくなっていた。
壮介はまっすぐ前を見て 強を睨みつけた。