大人の階段~百十八話~
幸せで満ちた毎日を送る壮介と静だったが
二年になり クラス替えをしたあたりから 二人を取り巻く環境が
少しづつ変わってきた。
静とはまた同じクラスになって喜んでいたけれど
その喜びもつかの間だった。
「同じクラスだな。よろしくな。」
洋一が名簿に乗った時に 壮介は 終わった・・・・と思った。
中学の頃 こいつのせいでどれだけイヤな思いや悔しい思いをしたことか。
おまけに大介も隣のクラスになり
体育に授業で一緒になることになって さらに気が重かった。
入学時の大介は華奢で細かったけれど
ここ半年くらいで 身長も伸びて 二人の容姿が似てきているのは
よく見ればわかることだった。
大介は生徒会で活躍している。
生徒総会や学年集会で その頭角を現している。
次期生徒会長は 壮介から見ても大きく見えた。
「学年ベスト三位争いの二人が同じクラスですか~~」
嫌味くさそうに洋一が言った。
「なんか壮介 最近怖い顔してるよ。」静に指摘されたように
中学の時あだ名をつけられた
狼
壮介は洋一がきっと何かしてくると
気が抜けなくなってきていた。
「洋一には気をつけろ。」
「うん わかった。」静も巻き込まれたら大変だと思った。
そんなある日のことだった。
「角谷くん ちょっといい?」
大介のクラスの女子に声をかけられた。
壮介は足を止めてふり向いた。
「あの……つきあってほしいんだけど……。」
頬を真っ赤にして緊張している様子が 微笑ましかった。
「ごめんね。俺は好きな人がいるから…。」
女子は悲しそうにうつむいた。
「ありがとう。俺みたいなのに勇気出してくれて。」
「ううん。好きな人がいるって噂は聞いてたから……
それでも気持ち押しつけてごめんなさい。」
そう言うと女子は逃げるように待っていた女子のグループに
戻って行った。
最近 告白されることが増えて
静とのことをはっきり言えたら 罪悪感もなくなるんだけどなと
壮介はため息をついた。
女子は泣いていた。
まいったな……。
「すごいな~すごいな~~壮介くんは~~。」
教室に戻ると 洋一が大きな声で言った。
「モテモテだね~~~。」とうとう始まった…と思った。
「さっきの子さ俺と前同じクラスなんだけど けっこう可愛いじゃん。
どうした?付き合うことにしたのか?」
洋一に対しての嫌悪感は小さい頃からあった。
大介の後ばかりついて 壮介を見るとバカにした顔で何かにつけて
いちゃもんをつけてきた。
大介は何も言わなかったが 洋一が二人の間を駆け回って
口をあまり聞かない二人を遠ざけていたような気がする。
「断ったのか~~?すごいな~~~。
断っちゃうんだ。壮介くんは 理想が高いんだ~~。」
バカにしたようなその言い方に ムカムカしてきた。
静が心配そうに壮介を見つめた。
「同じ双子ならさ…俺なら大介の方が絶対にいいな。
だってさ 次期社長で金持ちで~~~。」
そう言いかけて 洋一は口をおさえた。
「え~~~~何?板垣と角谷って…双子なの!?」
その言葉にクラスが騒然となった。
「あ~~~やべ~~~。」洋一はそう言いながら笑いを浮かべた。
「そう言えば…なんか似てるよな。」
クラス中がいたるとこで
壮介と大介の共通点を 議論し始める。
壮介は思わず洋一を睨みつけた。
「お~~こわ~~狼が目を覚ましたな。
そろそろよそいきの顔はやめた方がいい。おまえは
そういう顔が本当の顔だからな。」
これ以上話したら殴りつけそうだったから
教室から外へ出た。
クラスの中では 大介と壮介が双子だという驚きの話題で持ち切りになっていた。
やっぱりな
洋一の存在は 壮介の生活を狂わして行く気がした。
静も驚いているだろうな
隣の教室で読書をしている大介を見つけた。
双子で悪いか?
相変わらず 落ち着いた様子の大介を見ながら
違う俺が もう一人いる……。
一卵性双生児の二人は 大介の成長とともにやはり似てきていた。
どこが似ている?
顔は似ていても 性格は全く違うし…好きな事も興味も一切
共通点はなかった。
大介を見ていると焦る。
こいつにだけは 負けたくない
そう思う気持ちがまた 強くなっていた。