絡まる糸~百十四話~
「壮介くん~~」
正門を出たところで 後から声がして振り返った。
「待って~~。」息を切らせて 静が走ってきた。
「今日は バイトかい?」
「だったんだけど…店長からメールきてシフトが変更になったの。」
静がカバンの中から携帯電話を出した。
叔母の家に引越してから 一番今欲しいものは?と聞かれて
携帯と言ったら…買ってもらったと 嬉しそうに報告してくれた。
「これで 保育園や 店や 家に 電話かけたりできるから
圭のこともあるし…一安心。携帯代も増えたからまた仕事頑張らないと~」
静もとうとう携帯を持ったんだ……。
壮介は嬉しそうな静を見ながら 少し複雑だった。
昨日 男子からアドレスを教えてほしいと言われて困っていたけど
静は すっかり外見だけじゃなく 内面も変わってきてしまった。
壮介以外に友達はいなさそうだった生活が一転
最近は人の輪の中心で 笑っている姿をよく見るようになっていた。
クラスも一緒だし 壮介はそんな幸せそうな静を見ながら
よかったな…
そう思うものの どんどん距離が広がってくるようで寂しかった。
「もう…圭は保育園にいるんだけど…夕方まで……
壮介くんと一緒にいたいなって…あ…これ変な意味じゃないよ……。
圭もいないから…少しゆっくり話せるかなって……。」
真っ赤になった静が慌てる。
「あはは・・・そんな思いっきり否定すんなよ。」
壮介は思いがけない誘いに一気にバラ色になる。
「かあさん 今日休みだからうちに来るか?」
「ほんと?嬉しい~~。おばさんにも会いたかったの。
いろいろ報告したいこともあったし。
突然行ったら 驚くだろうから 壮介くん電話して聞いてくれる?」
静が携帯を貸してくれた。
これが・・携帯か~~便利だな~~
変な感心をしながら 大歓迎の母親の声を聞きながら家に向かった。
「壮介くん 学校だと非常に話しかけにくいんだけど……。」
「ああ…あんまり人とかかわるの苦手なんだよな。」
「そうなんだ。
でも女子からは そんなとこがけっこう人気だったりしてるみたい。」
「え~~?マジ?それはうれしいっしょ。」
まんざら悪い気もしない 反対にすごく嬉しかったりする。
「壮介くんとこんなにお話できるのって…もしかして私だけ?」
「考えてみると……実際そうかもしれないな~~。」
「それは大光栄だわ。うふふ・・・・」
肩をすぼめて静が笑う。
可愛く笑うんだな・・・・・・。
思わず見とれていたら 目が合って 慌ててそらした。
「なんか圭がいないって変だよな。
静ちゃんと一心同体イメージが強くてさ。」
「私の宝物だもん。でもたまには…こうしてゆっくりと
自分のために使う時間も欲しい……最近 恵まれ過ぎていて
少し贅沢になってるのかな。
だから今日みたいな 思いがけない貴重な時間は 壮介くんと
いっぱいお話したかったの。」
愛の告白なわけじゃないのに
壮介の体中から 汗が噴き出してきた。
「どうしたの?」覗き込む静が少しアップで
心臓が高鳴った。
「あっつくない?」思わず目をそらす。
「ううん~~ちょうどいいけど?」
まずい・・・・俺の心の中にやばいもんがいる……。
壮介はそう確信した。
静に心を奪われていた。
これが…恋……なんだ……。
静に対する胸のときめきに 壮介はパニックになっていた。
俺 静ちゃんが…好きなんだ……。
バカみたいに何度も心で つぶやいていた。