絡まる糸~百十三話~
あってはならないことだった。
一学期の期末テストで 大介は初めて一位の座を明け渡した。
二者懇談で先生から
「板垣 今回も接戦だたけど……今回は…学年三位だったな。
一位とは十点差 二位とは三点差…レベルが高いベスト3争いだな……。」
先生の言葉に大介は 動揺した。
じゃあ一位は…日高 静か・・・・・。
同じ 中学出身で…いつも俺のあとに続いて成績のいい女
初めてだった。
三位……。
二人にも抜かされてしまって……気が動転していた。
「大介 とうとう抜かされたな~~。」洋一が どこから情報を仕入れたのか
面白そうな顔で言った。
こいつの情報には頭がさがるな……。
「すごいんだな。日高って。
大介の学校だったんだろ?それに最近 綺麗になったらしいよな。
クラスの奴が劇的に変わったって 言ってた。」
やはり 静か……。
確かに 日高 静 は ものすごく変わった。
三年間 一緒に生徒会の仕事をしたけど 話たことは本当に数回
陰気で少し不潔っぽくて 最後の方はまともに仕事もしない無責任なタイプ。
だけど 最近見かける静は 友人ができ 笑顔ですれ違う。
少し不潔っぽかった外見も さなぎから抜け出た蝶のように……
今は すっかりあかぬけていた。
女ってすごいな……。
「おじさん・・・ キレるんじゃないか?」
洋一の嬉しそうな顔が悔しい。
父親にとっては 一位なんて位置はあたりまえにすぎなかった。
あたりまえすぎて・・・・想像もつかない。
三位……
「おまえは少しあがったのか?」話をかえしてやる。
洋一は
「俺のことはいいじゃん…どうせ…たいしたもんじゃないよ。
ところで二位は誰なんだろうな。」
「どうでもいいよ。おまえは人のことはいいからさ……
自分のこと頑張れよ。」
「俺と大介はさ もう将来が決まってるだろ?」
「おまえは社長で 俺は副社長 って感じ?」
おまえみたいな 無能な奴 無理だ。
大介は思わず吹き出した。
「何よ?なんか問題あっか?」
さすがの洋一も気分を損ねたのかムッとしている。
洋一は 思った通り 中学でもあまり好かれてはいないようだった。
クラスの女子が
体育の授業でグランドに立ってる 洋一を名指しで
「あいつ ほんと嫌い。宇宙に拉致されたらいいのに~」と
心底大嫌いと言いたげな表情で吐き捨てたのが おかしかった。
それは 洋一に教えてやりたいけれど…さすがに気の毒だから
大介の胸におさめてやっている。
「告白されるんだけど 断ってんだよな。」
なんてあれは見栄はりまくりか……。
洋一の欠点は そんなところから来るんだろう。
それにしても 今回の結果は いつものように父親はあたりまえで
無関心だから自分から言わないでおこうと大介は考えていた。
「壮介とは喋ったのか?」
一番ふれたくない壮介の名前が出て さすがに大介もムッとしてきた。
「話す内容がないだろ。」
「双子なのに…まぁ…全然似てないから…周りもまだ気づいてないみたいだし…。」
いちいちムカつく男だなと大介はイライラしてきた。
壮介とは他人だった。
向こうからも話かけてくることもなく 廊下で会ってもお互い目線が
ぶつかることもなく……他人としてすれ違う。
それにしても…大介のコンプレックスは 体格の貧弱さと少し成長が遅いことだった。
なかなか背が伸びてこない。
父親からは 好き嫌いばかりしてきたからだ と言われた。
同じ双子の壮介は もう完璧にでき上っている。
きっとその成長の違いで 誰も二人が兄弟だとは分からないのかもしれない。
このまま成長しなかったら……
周りがみんな男らしくなる中で 大介だけがまだ 少年だった。
勉強も運動も…それから人をまとめる力もあるのに……
高校に入ると周りが大人過ぎて 自分だけが異質な感じがした。
そう大介に 痛感させるのは やはり壮介の存在だった。