絡まる糸~百十二話~
マサヨの子供が帰ってきた。
低い声を聞きながら 静はドキドキしていた。
そして入ってきた息子壮介はとても背が高くて…そして男らしく端正な顔だちをしていた。
静の胸はすぐにドキドキと脈を打つ。
マサヨから聞いた通りの優しい男の子で
自分と同じ学年だと聞いていたから とても恥ずかしくなった。
盗み見する顔は・・・・どこかで見たことのあるきがした。
似てる……。
姿形は全然違うけれど…どうしても重なってしまった。
静の学校の生徒会長だった 板垣 大介・・・・。
中学の入学式の日 新入生代表の挨拶をした板垣 大介は
凛として堂々として自分とはまったく違うものを持っていた。
毎日 大介は黒塗りの車で登下校していた。
お金もちの子供
みんながそう噂していた。
勉強もできて 悔しいけれど静は一度もまだ勝てたことがない。
あたりまえのように生徒会に入った大介とは反対に
やらされてクラス代表になった静は 大介の人の上に立つという能力に
優れたところに いつも感心していた。
先輩たちにも一目おかれる大介は
女子の憧れの的でもあった。
全然私とは 違う人種……。
ここにまた全然境遇が違うのに 大介に感じの似てる壮介がいる。
お互い母子家庭ということでなんだかとても親近感がわいた。
同時に マサヨという憧れの母親像を母に持つ 壮介がうらやましかった。
男子とこんなに話たことは初めてだったけど
壮介はとても優しく話してくれるから 心がすぐに打ち解けた。
ときどき
どうして会長と表情がだぶるのかな
そんなことを考えながら…マサヨによく似た優しい笑顔に
静の心はいつしかほんわかと温かくなって 特別な感情が芽生えているのがわかっていた。
恋をしてる……?
そんな壮介とまた再会したのもつかの間で
とうとう母親が出て行った。
借金から逃げている若い男を追って
「圭を育ててる暇はない
あんたには悪いと思ってるよ。
だけど私だって……愛が欲しい……女でいたいんだ……。」と言う。
「じゃあ どうして私と圭を産んだの?」
「愛した人の子供だったから……。」
そう言い残してある日 学校から帰ってきたら テーブルに一枚の書き置き
『私は母親にはなれない。
自分を愛してくれる人の腕の中で 暮したい。
いつかきっとあんたが大人になったら わかってくれる…。』
貯金通帳には少しだけ当面の額が入っていた。
無造作におかれた三文判
それから妹に頼れと書いてあった。
不思議と寂しいと思わなかった。やっと解放された…そう思った。
狭い家の中に次々と変わる男への恐怖感
耳をふさぎ泣きながら眠った夜……
母は男の前では 女だった。
男と女に絶望して…ずっとずっと耐えてきたから
母親がいなくなって すっきりとした気分だった。
働かなきゃ
静を母だと思いこんでる圭のためにも……
今までの生活を考えれば…幸せだった。なんとかなる……。
顔見知りのお弁当やでアルバイトをさせてもらえた。
学校は行けなくなったけど 仕方がないと思った。
壮介くん…心配してくれてるかな……。
壮介に会えないことだけが悲しかった。
でも今は 生活していかなければならない……。
母親が失踪したのは まだ誰にも言わないでいたけど ある日女性が訪ねてきた。
母の妹と名乗る人は 近田 頼子 と言った。
「ねえさんから 連絡もらったんだけど……。」
家に入ってきて 叔母は
「本当にあの人 あんたたち置いて出て行ったの?
あきれるわ…。何考えてるんだか…。」
少し時間をちょうだいと言って 叔母は帰って行った。
弁当屋に壮介が現れた。
偶然に 静の心は熱くなった。
心配してくれる様子に 嬉しくて なんだかウキウキした。
壮介くんが…好き……。
静の心に芽生えた 恋の芽がまっすぐ伸びて行った。