絡まる糸~百七話~
一度家に戻って母に 静のことを話して
また弁当屋に戻った。
ちょうど向こう側から 静が歩いてきた。
「静ちゃん。」壮介が声をかけると 驚いた顔をして足を止めた。
「なんで学校来ないんだ?」
「いろいろあって…先生には話たんだけどね……。
学校やめることになると思うの。」
「え?」耳を疑った。
「だって 入学してきたばっかだろ?」
「家庭の事情ってやつ……。」
静の家が大変そうなのはわかるけれど 学校をやめなければいけないというのは
「せっかく入学できたのに?」
「うん・・・・。母親がいなくなったの。」
「いなくなったって何で?」
「面倒になったんじゃない。あの女には母親の資格なんてないから。」
「だって弟だってまだ赤ちゃんだよ?」
壮介は信じられなかった。
「新しい男と逃げたの。
私と圭の父親だって違うから…圭の父親だってどこのだれかわかんない。
愛してる人の子供だから産んだなんてきれいごと言ったけど
結局また他に愛してる人ができたから 私たちを捨てた。」
「ひどいな。」
「母親じゃなくて 女なの。
あの血が流れていると思うとぞっとするわ。
私は絶対 あんな人間にはなりたくない。」
「今は圭はどうしてんの?」
「24時間預かってくれる保育園にいるの。これから迎えに行く。
バイトする時間だけでも預かってもらえれば助かるの。
親戚の家に今いるんだけど…生活費としていれられるし……肩身狭いの。」
「学校なんかいけないでしょ・・・。」
静の言葉に 返す言葉が見つからない。
「子供は親を選べないからね・・・・・。
私と圭は 助け合って生きて行くしかない。母親を憎みながら……。」
「送ってく・・・。」それしか言葉が見つからない。
「ありがと。壮介くんの言葉いつもありがたい。
人に優しくしてもらったことなんかないから。」
「何もしてやれないな。俺に金があったら母さんも静ちゃんも助けてやれんのに。」
静が空を見上げて
「ありがとう。その言葉すっごく嬉しい。
壮介くんは いいおかあさんに育てられてうらやましいな。」
保育園で圭を受け取った。
圭は壮介を見ると 手を出した。
「だっこしてほしいらしいわ。圭も男の人に憧れるんだよね。
おとうさんって言う人間を知らないから……。
この子もいったいどんな人生を歩くんだろ……。全部私にかかってきてるから…
すごくプレッシャーなんだよね。」
壮介は圭を抱き上げた。
圭は 嬉しそうに足をばたつかせて
キャッキャと喜んだ。
「よかったね~おにいちゃんにだっこしてもらって~~」
暗い夜道を三人で歩いた。
壮介は 静が哀れで仕方がなかった。
境遇が似ている静を なんとか助けることはできないのかと考えたけど
答えは見つからない。