絡まる糸~百六話~
「かあさん・・・・・。」
壮介が来たことも気づかずにマサヨはボーッとしていた。
「大丈夫か?」
「あ…壮介……。」マサヨは言葉も出ないくらい混乱していた。
「会ったのか?」
「うん……。考えてもいなかったから…混乱しちゃって……。」
学校の正門を出て歩き出した。
「ごめん。俺もしらなかったから…ビックりした。
一番会いたくないヤツに会っちゃったって感じで……。
そしてやっぱりあいつは 俺の上を走ってるし……。」
「大介は大介 壮介は壮介でしょう?
おかあさんは胸をはりたいわ。五位だなんて…よく頑張ったわね。」
「俺もビックリだった。」
壮介が嬉しそうに微笑んだ。
「壮介…せっかくおかあさんのためにここに入ってくれたけど……
おとうさんにもう甘えたくないの。
本当は学費だってもう出してもらいたくない…板垣という家から完全に解放されたい。
だけどそれは…無理だから……壮介は貧乏がイヤなんだよね?」
「俺は別に貧乏だからいやだとかそんなこと言ってないよ。
かあさんが辛そうだから…俺にはもうかあさんしかいないから……
大変そうで見てるのが辛いんだ。とうさんに援助してもらえれば
かあさんだって仕事の時間も減らしてもっと楽にしてもらいたいんだ。
俺にはまだかあさんを 助ける力がないから……俺が大人になるまでもう少しかかるから。」
壮介は辛くなった。
自分は母親を助けたい一心だったけど…それはもしかしたら
母を傷つけてしまったのかもしれない。
「壮介は気持ちの優しい子だから おかあさんもついつい甘えていたんだね。
ごめんね。一生懸命頑張ってくれたのは……
おかあさんを助けようとしてくれたのね。何もしらなくてごめんなさいね。」
母親のためと思ってしたことだったけれど
傷つけてしまった気がした後悔した。
「あの人は全然変わらなかったわ。大介は…大丈夫なのかしら……。」
母親はポツリと言った。
横を黒い車が通り過ぎて行った。
その横顔は 大介だった。
「大介・・・・・・。」母の顔が哀しそうだった。
次の日の登校から 静がこなくなった。
一週間を過ぎた頃 少しづつ話をしだし始めたクラスの中に 静と同じ
中学出身がいたから思いきって聞いてみた。
「日高さんて こうやって休む人なのか?」
「あんまり接点もたない感じで学校でも一人でいたな。
修学旅行とか学校行事は参加しなかったし…なんか母子家庭で
虐待を受けてるとかそんな噂もあったな~~。風呂とかちゃんと入ってないのか
みんなから不潔だとか言われてたし……。だけど学校だけは来てたよ。
どうしたんだろうな。」
「虐待か・・・・。」
静は母親のことを嫌いだと言っていたことを思い出した。
「だらしない母親らしいよ。」
壮介の母親をうらやましいと言っていた。
「静ちゃん 学校に来た?」母も心配していた。
静が 休み出して10日たったころだった。
風邪で体調を崩した 母親のために弁当屋によった。
その時 レジに出てきたのは 静だった。
「日高さん?」
「あ・・・・壮介くん・・・・。」
「何してんの?」
「バイト……。」哀しそうに目を伏せた。