絡まる糸~百五話~
「ひさしぶりだな。」動揺を隠しきれずに体育館から出た マサヨに
一番会いたくな男が近づいてきた。
「少しやつれたんじゃないか?」勝ち誇った顔 首を絞めてやりたくなった。
「大介の挨拶 聞いてくれたか?立派だろ?
満点だなんて さすが次期 板垣の会社を任せられる息子に育った。
おまえも俺に礼を言ったらどうだ?」
「あの子は…あなたのお人形だから……。いいんじゃないですか?」
「人形か?母親のくせにひどいいい方するな。
あはは・・・・・。」強はわざとに大きな声で笑った。
「壮介もすごいじゃないか。貧乏暮らししてるのに…たいしたものだな。
環境が整っている大介に近づいているなんて あいつも頭脳はいいのかな?」
「努力家ですから。私を気遣ってくれて必死に勉強してました。
私は別にここにこなくても もっと楽に入れる高校でよかったんですけど…。」
「あいつも野心家なんだよ。俺の息子だぞ。
お人よしじゃない。それが今回この結果でよくわかった。
立派な息子に育ってくれて嬉しいよ。」
「あなたに壮介を息子だなんて言ってほしくありません。
大介をあんな形でとりあげて 壮介までとりあげないでください。」
「選ぶのは壮介だからな。
あいつは親孝行な子供だ・・・・・。」
「どういう意味ですか?孝行なのは私に対してだけです。
あなたに対しては父親だという気持ちはないですから。」
「いつまでも壮介は貧乏でいたくないだろうよ。
おまえだけの給料じゃ不安でたまらないんだ。欲しいものも我慢してきたけど
壮介だってそんな生活が続けば辛いだろうさ。」
マサヨも壮介が不憫だと思ってはいた。
「壮介から聞いてないのか?」
「何をですか?」
「ここに合格したら 生活費として少し援助してやるって約束したんだ。
とりあえず最低限の 学費はださせてもらってはいるけど おまえの働きだけじゃ
まともな暮らしもできないんだろう?
壮介が哀れで仕方ない。」
マサヨは頭に血がのぼった。
「あなたのせいでしょう?私をずっと裏切って鼻の下のばして
若い女にいいように利用されて…大介を奪って…私と壮介を捨てたんじゃないですか?」
「捨てた?人聞きの悪い話だな。
おまえに母親としての自覚が足りないからだ。我慢できない…
子供たちのために犠牲になる気がない。」
「あなたと話してたら…血圧上がります。
生活費の話は断ります。ここに壮介を入れて何をする気なの?
大介と競わせてどうするつもり?あなたは壮介には関心がなかったでしょ?」
強はネクタイを緩めた。
「壮介は強い男に育った。あの目の奥にある光……ゾクゾクするね。
大介にはああいう野性的なところがないんだ。もやしみたいに…言われたことしかできない。
反面壮介には可能性を感じる。
お互いないところを持って生まれてきたんだな双子って面白いな。」
強の顔は父親というよりも 大介と壮介を操ろうとしている悪魔にしかみえなかった。
「これから今までの生活みたいなことしてたら 壮介は離れていくぞ。」
その言葉は マサヨにとって一番怖い言葉だった。
今の生活に壮介が満足しているなんて思ってはいない……。
だけど……この男の庇護だけは絶対に受けたくない。
「壮介とよく話合ってくれ。俺の方は援助する準備はできているから。」
そう言うと 強は玄関を出て 迎えの車に乗り込んだ。
マサヨは必死で悔し涙をこらえていた。