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絡まる糸~百三話~

「壮介…よかったね。本当によかった。

よく頑張ったね。」母は 詰襟に手を通した壮介にそう言うと泣き笑った。



「入学式に泣く親なんていないから。」壮介は少しくすぐったかった。



「だっておかあさん 卒業式にはいかれなかったから…

そう言えば入学式にもいけなかったから…今日初めて出席できるのね。

嬉しい…本当に嬉しいわ。」



母は壮介が行きたいと願った高校に入ってすごく喜んでくれた。



無理しなくても 本当はまだ下の学校でもよかったけど



  あいつをギャフンと言わせてやりたい



そんな気持ちも心の奥底にはあった。



父親に会ったら少しでも母親の負担が軽くなるように頼んでみよう。

学費は出してやると母親と別れる時にそう約束したけど学費だけじゃ

母親の負担は軽くしてやれない。



母親がやつれたのは 子供の目から見てもよくわかった。

実家も手を貸してはくれない……。


母は孤独になっていた。



自分が働いて家計を助けてやれるようになるまではまだ数年かかるけど……

それまでは一応父親面をしているあの男を利用するしかない。



母がそれを知ったら…きっと怒るだろうけど……

でも…これから高校に上がることによってまた家計が苦しくなる。

それは間違いないことだった。




気がかかりなのは 洋一も同じ学校だと言う事だった。

洋一に大介のことを聞きたかったけど……大介は英語が得意だったから

きっと英文科にでも行くんだろうと思っていた。


「これからの経営者は英会話ができないと話にならない。

おまえはもっともっとその力をつけなさい。」大介は父親からいつもそう言われていた。



母だって口には出さないけれど やっぱり大介を気にしている。

壮介が気にする何倍もきっと………。




正面玄関に張り出されたクラス表を見たら一組になっていた。


「あら…日高…静ちゃん…も同じクラスよ。

仲良くしてあげてね。」母はそう言って手を叩いた。



  静も 合格したんだ



入試の帰り道 静と少し話をした。


「どうだった?難しかったよね。」



「そう?私はなんとか大丈夫そうだけど…壮介くん…大丈夫?」

静は本当に心配そうに壮介を覗き込んだ。



「すごいな。そんな自信どっからくるんだ?うらやましいな。

俺はもうヒヤヒヤだよ。家計をこれ以上苦しめるわけにはいかないからな。」



「そう自覚してるんだったら大丈夫よ。

私たちには失敗は許されないっていう 十字架を背負ってるんだから。

壮介くんだって絶対大丈夫よ。」




「十字架か・・・・。」

思わずたとえに苦笑した。





「高校に行ったら アルバイトしようと思ってるの。」



「あそこの学校はダメだよね。」



「それは内緒にして…じゃないとうちは本当に大変だから……。」



「それなら俺だって同じだよ。」



「でも壮介くんのおかあさんはちゃんと働いているでしょう。

うちの母親は最低な女だから……これからどうなるのかわからないわ……。」



「最低って…自分の親だろ?」



「子供は親を選べないから…それなのにまた弟を産んじゃって……。

どうする気なのか…女としても母親としても…最低の低…絶対あんな女にはならない。」


静が唇をかみしめた。



「そっか…いろいろあるんだな。」



「あるよ。ほんと。壮介くんのおかあさんみたいなおかあさんだったら私すごく

幸せだったと思うわ。」




「うん。俺は幸せだよ。かあさんが喜んでくれるから頑張れるんだ。」



「うらやましいな。」



「またおいでよ。かあさんも喜ぶよ。

赤ちゃんにも会いたいし……。」




「ありがとう。またおじゃまさせてね。同じ学校になれるといいな。」



静が下を向いて恥ずかしそうにしていた。





「静ちゃんも大変だからね。」母がそう言った。




「あの子またうちに来たいって言ってたよ。呼んであげたら?」



「そうね。静ちゃんには罪はないから…おかあさんもそのつもり。」



「罪って?」



「お金にだらしない人でね…仕事場の人達からもずい分お金を借りて そのまま

やめてしまったから…おかあさんも泣きつかれて貸しちゃったの。」



「マジに?そうなんだ。」



「でもおかあさんもわかるのよ。お金ないって…本当にどこかに泣きつきたいけど

でも返すあてもないし…おかあさんはそんな根性もないわ。」



「それでいいよ。我慢すればいい、そんな人に迷惑かけてまで美味いもの喰ったりしなくていい。」



「壮介がそう言う子で おかあさんは助かったわ。」



母は笑った。




静が 最低の低と呼んだ 自分の母親……

そんなことを言わなきゃならない静が 哀れだった。

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