愛憎の始まり~百二話~
「ビックリしただろ?」 大介の後から声がして振り返った。
洋一がニヤニヤして立っている。
「あいつもここ受けるなんて思わなかったよな。」
「なんで俺に言わなかった?」
「は?壮介のこと一切言うなって命令したのは大介だろ?」
「それとこれとは……。」
確かにそうだったから 次の言葉に迷った。
「だけどさ よ~~く見ないと双子だってわかんないよな。
俺いっつも思ってたけど 中学行って壮介は かなり別人になったからな。」
成長具合が悪いとでもいいたいんだろう。
洋一はいつもそういうやらしいいい方で 大介に挑んでくる。
相手にしてる暇はない
「多分落ちるとはおもうけどな。何 意地になってここ受けてんだか
理由わかんないよな。私立になんか行ったらさ母さん地獄だろうさ。
それでなくてもよく勤め先で怒られてるから。」
カチンときた。
母親のその姿は何度も見ていた。
大介が思うに あれは仕事ができないんじゃなくて 単なるイジメだと思った。
「おばさんって おじょうさま育ちだから順応できないんじゃないかって
母さんが言ってたよ。可哀そう通り越して 哀れになるな。
壮介も身なりからして 貧乏くさいし
学校でも嫌われてるからな。」
やっと解禁だという勢いで 喋り出した。
壮介のことは別によかったが 母親を侮辱するのが許せなかった。
憎んでいるはずなのに……。
これ以上聞いていたら 志望校先で暴力事件でもおこしそうだったから
足早に玄関に向かった。
「大介 待てよ~~。」
「悪い。車来てるんだ。」
今夜は行きたくないけど 父親と若い女と食事に行くことになっていた。
迎えの車に乗り込んだ。
周りの目が 大介を見ている。
こいつ何者?
こういう視線は心地よかった。
車が動きだしてから少しすると 壮介の後姿が見えた。
「少しゆっくり行って。」運転手に指示した。
壮介少し駆け足で走っていて 前の女子生徒に並んだ。
そして笑顔で話しかけていた。爽やかな優しそうな笑顔だった。
そしてその相手はうちの学校の あの日高 静
静はうつむき加減で歩いている。
その横で壮介がこちら向きに 人懐っこい笑顔を見せていた。
壮介を追い越した。
まさかおまえとまたこんな形で会うなんて思わなかった。
洋一の言った通りだった。
俺たちが双子だということは 多分静も 気づかないだろう。
貧乏してるわりに 壮介はもう軽く170を越えて 大人の男のようだった。
それに比べて 大介は
やせていて背はまだ165にも満たない。
おまえにだけは会いたくなかった。
もしもこの学校に入学してきたら 自分は壮介という一生涯のライバルと
戦って行かなければならない。
それが気がかりだった。
負けたくないその気持ちが強すぎて 自分がコントロールできなくなる恐怖に
襲われていた。
静が微笑んでいた。
マジに?
絶対笑わない静が 笑顔を返していた。
うっそ………
楽しそうに会話をしている。
その姿を後にして……
大介の心に闘争心が芽生えた。