愛憎の始まり~百一話~
この世で何よりも憎いもの……それは壮介だった。
同じ顔を持って生まれてきた壮介……
しかし母親は 大介より壮介を愛して 自分を置いて行ってしまった。
母親は生き生きとしているような気がした。
見てる間ずい分と叱られていたけれど それでも家で見ていた母とは違った。
やつれた感はあったけどそれでも
なんだかハツラツとして見えた。
恋しいと何度 泣いただろう
なぜ自分は母親に 嫌われたんだろう……。
一生懸命頑張ってきたし……それが親の望みだと思ったから。
壮介がうらやましかった。
自由な時間 縛られない毎日
なんで俺だけこんなに辛いんだ
そう思えば 自由に生きている壮介が憎らしくて仕方ない。
いつも母に甘えて 愛されて……嫉妬で気が狂いそうになった……。
そして自分は捨てられて 母親は出て行った。
壮介だけを連れて……。
母親は自分を見たら なんて言うだろう。
大介はスーパーの閉店時間まで 立ち読みをしたり時間をつぶしていた。
どうしても母と会いたくて仕方がなかった。
しばらくして 閉店の放送が流れて冷え込んだ外に移動して隠れて母の
出てくるのを待った。
なんて言う?
そう考えてたけど言葉が見つからなかった。
でも 会いたい
思いだけが膨らんでくる。
外は思いっきり冷えていた。
数人の従業員が 固まって出てきた中に母がいるのかはわからなかった。
「かあさん!!」
駐車場の車の陰から声がした。
「あら?どうしたの?」
その声は母の声だった。
大介は影から出てくる背の高い男を直視していた。
「遅い時間だからさ…ちょっと心配になって…
頭を冷やすのにもいいかなって思ってさ。」
自分よりずっと低い男の声だった。
「あら 角谷さん 息子さんなの?」
「はい!!」母の声が弾んでいた。
「壮介です。母がいつもお世話になっております。」
「あら~~ちょっとしっかりしてるわね。
もうすぐ受験だものね。おかあさん迎えにきて風邪なんかひかないでよ。」
「ありがとうございます。」
母は壮介と一緒に歩き出した。
「あらちょっと本当に 手が冷えてるわよ。」
「あのね かあさん 俺はもう中三だからね。
手とかつながないでしょ?」
「あらあら そうだったわね。いつまでも小さい壮介じゃないものね。」
「そうだよ。学校でも一番背が高いんだからな。」
「壮介もどんどん大人になっていくのね。
帰りにコンビニでおでんでも買って行こうか。」
「お金もったいないよ。」
「いいじゃない~せっかく来てくれたんだもん。
アツアツなの食べながら帰ろう。」
二人は寄り添って大介を置いて どんどん遠くに消えて行く。
幸せそうな笑い声を残して
ふと頬が冷たくなった。
「何してんだ……俺は……。」
頬伝う涙をゴシゴシ痛いくらいに拭いた。
「俺は一人なんだ……。母親も兄弟もいない……。
そんなところに期待してどうする……。」
そう思っても溢れ出る涙
幸せそうな二人を見て・・・なおのこと孤独感が増す。
「俺は・・・・一人だ。
だけど絶対 壮介にだけは負けたくない……。」
暗い帰り道 雪が降り積もる。
もう二度と会いにこない
そう誓いながら・・・・頬に伝う涙を拭きながら歩く。
しかしまた すぐにその想いはくつがえさせられた。
受験が終わって ホッとしたのもつかの間だった。
玄関を出て行く壮介を見つけた時 冷たい汗を背中に感じた。
まさか……ここを受けたのか…?
いとこの洋一が同じ学校で 一度壮介のことを話だしたことがあった。
その時大介は
「俺の前でアイツの話を二度とするな。」と一喝した。
大介の言う事なら何でも聞く洋一は それから一切壮介の話をしなかった。
あいつの志望校聞いとけばよかった。
しかし・・・あの壮介がここを受けるなんて
自分は何年も勉強で努力してきてここを受けにきた。
父親が絶対ここだという 押しもあったし・・・・
なのにあいつは簡単にここを受けたというのか・・・・・・。
どうせ落ちるに決まってる……。
壮介のたくましい体と自分の情けない体を比べていた。
あいつにだけは絶対負けたくない
拳を握りしめた。