呪い~十話~
三学期も終わりに近づいた春のことだった。
私はまた自分の殻に閉じこもった。
くさい
そう思われたらイヤだから あまり人の近くに
寄らないようにしていた。
私にママがいたら
「幸 くさい?」そう聞けて安心できたけど
他人には口が裂けても聞けなかった。
凛はくさいとは言わなくなったけど
相変わらず数人で私の悪口を言って笑っていた。
その横を顔をあげずに通り過ぎた。
「キャハハハ~~」凛の声が追い掛けてくるようで
私は早足でその場を離れた。
その日 生き物係の打ち合わせがあって
私が教室に戻ってきて 帰ろうと席に行くと
ランドセルがなかった。
「あれ……」
小さな声で私は言った。
「ない……ない……!!」
机の脇にかけていたはずのピンクのランドセルがない。
「あれ?」
なんでないの?
泣きそうになった。
落ち着いて考えてみよう……。
でもどんなに落ち着いても ランドセルはここにしかかけない。
教室の前のドアが開いて
こうくんが入ってきた。
「幸・・・おまえの教科書さ……」
こうくんが私のペンケースと教科書を差し出した。
「どこにあったの?」興奮して高くんの前に駆け寄る。
「玄関のさ・・・ゴミ箱に捨ててあった。」
「ゴミ箱?」
「うん……。先生に言ってくる。
多分あいつらじゃないか?」
「ゴミ箱に…ランドセルなかった?」
「ランドセル?なかったけど……ないのか?」
涙が溢れだした。
絶対に泣かないって…人の前で泣かないって誓ったのに・・・・
「先生に言ってくるから。」
こうくんは教室を飛び出していった。
「う・・・・う・・・・」
誰か知らないけれど 私に送ってくれたピンクのランドセル……
両親がいない私にとって
新しいものを使えることがどんなに嬉しかったか・・・。
いつか大きくなったら
「ありがとう」って言いたい……。
忘れられていたら困るから 目印にランドセルを持って行こうって……
担任も出て探してくれたけど 結局見つからなかった。
「また先生も教頭先生や一年生の先生たちと時間かけて
探してみるから…さっちゃんは一度園に帰って待っててくれる?」
誰かが盗んだとしたら
それは大変なことで公にはできない
それも担任は その犯人が凛じゃないかと疑っている。
私は目をゴシゴシ拭いてうなずいた。
哀しかった・・・・・。
完全に孤独になった気がした。
一人で帰れない・・・・・・・。
私は 泣きながら 園への道をランドセルを背負わずに歩いた。
意地悪な雪が降ってきた。
もうすぐ春なのに・・・・・意地悪な雪・・・・・。
「ヒック……ヒック……」
「キライ……みんなキライ……」
小さい幸せだった……。
あの呪いの言葉を思い出す。
こんな小さい幸せさえ……感じちゃいけないの?
春の雪はどんどん降りだしてきた。
そして私は 哀しくて孤独で
声をあげて ワンワン 泣きながら歩いた。