呪い~一話
幼い頃 母と散歩をしていた時のことだった。
すれ違おうとして一瞬 私と目があった
女性が 母に声をかけた。
「可愛いですね。」
「ありがとうございます。」
なぜだろう。私はとても小さいのに…女性の冷たい表情に
胸騒ぎを覚えた。
その時 いきなり風が吹いて 母の白い帽子が飛んだ。
「キャー…すみません 主人がプレゼントしてくれた帽子なんです。
拾ってくるので娘をお願いします。」
「あら…それは大変だわ。大丈夫ですよ。」
女性の言葉に 母は私を置いて帽子をひろいに走って行った。
「おまえの人生から全ての幸せを奪ってやる。」
さっきまで微笑んでいた女性がそう言った。
幼い私はただその女性の目の奥にある光を見つめている。
ママ怖い 早く戻ってきて…
金縛りにかかったように私は目しか動かせない。
「この呪い忘れないように……」
長い真っ赤な爪を私の太ももに突き刺した。
痛い!!
なのに私は泣くこともできないで その女の人の目の光から
目をそらすことができなかった。
「いい子ね…。幸せじゃないのに幸ちゃん。
名前負け……うふふ……。」
母が帽子を拾って戻ってくるのを確認して
女性は私から離れた。
「ありがとうございます~」
母はいつものような美しい笑顔でそう言った。
痛いよ…おかあさん……
母は私の傷には気がつかない。
女性はいつの間にか姿を消していた。
その瞬間 私は恐ろしさと痛さで泣き叫んだ。
オロオロする母が ベビー服ににじんだ血を見て悲鳴をあげた。
呪いをかけられた
普通なら記憶なんかあるわけないのに
私はこのことを忘れられなかった。
少しでも忘れると 傷が一瞬激しく痛んで記憶が蘇る。
でも…その呪いは今のところ私の人生には
なんの影響もなかった。
そう4歳の誕生日までは………。
呪いがかけられるまでのわずかな時間
私は幸せだった。
逞しい父と美しい母
たくさんの愛情と色とりどりの花が咲く庭
笑い声の絶えない白い家
全てを失ったのは 4歳の誕生日の日……。
不幸は突然訪れる……。