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殺し屋上がりの生命魔法使い〜俺は一応ヒーラーとして転生したんだが〜  作者: 刻彫
第一章 『異世界スローライフ(?)』
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第8話  『生命と血の魔法』

リカが出ていってから、俺はなんとなくこの家を見て回っていた。

そういえば、リカの部屋にはまだ入ったことがなかったな……。

いや、別にリカに興味があるわけじゃねぇ、単に職業病だ。

自分の身を置く場所、脱出経路、潜伏に使える死角、そういうのを確認しておかないと、どうにも落ち着かねぇ。


静かにドアノブを回しそっと開けると、甘い香りが鼻をくすぐった。

部屋の中には可愛らしい人形や本が並んでいて、ベッド脇には花が一輪。


……殺し屋時代のリカにはこんな趣味なかったはずだが、転生してほんとに変わったんだな……いい意味で。

そう思った瞬間、机の上で紙切れがひらりと風に舞った。


《……先輩、私の部屋、入ったらダメですからね♡ でもこの風魔法が作動してるってことは、入ってますよね♡ ――リカ》


「……おいおい、やましいことなんかしてねぇぞ、マジで」


小声で弁明しつつも、殺し屋としてのトラップ癖が今も健在なのは少し感心してしまう。

すると、机の上に二冊の分厚い本が置かれていた。

タイトルは《種族誌・第三改訂版》と《魔獣分類書》。

ペラペラとページをめくると、前者には亜人から魔族までの種族の特徴、後者にはスライムからデーモンまで、様々な魔物の情報が挿絵付きでまとめられていた。


「……ふむ、挿絵付きでわかりやすいな」


そう呟きながら、リカのベッドにごろんと寝転がる。

ふかふかで、リカの香りが残ってて……いや、考えるな。

ページをめくりながら、頭の中で情報を整理していく。


瞬間記憶能力は、殺し屋時代に叩き込まれた。

実際に記憶力強化訓練は、諜報機関や軍でも行われていて、一度見た風景や文書を完璧に記憶できる。

サヴァン症候群の人間が一目で記憶するのと同じ原理を、俺は意識的にやってるだけの話だ、大体の内容は一度読めば頭に入る。


今は戦場でも任務でもない、時間はいくらでもある。

……だからこそできるだけ多く、この世界の知識を詰め込んでおこう。





それから数時間が経った。


正直飽きた。

要点は大体覚えたし、もういいだろ。


どれくらい読んでたか懐中時計を確認すると、まだ午後一時。

……ベッドに寝転がってたのがリカにバレたら、絶対怒られるな。


仕方なくベッドメイクをしながら軽くおさらいをする。

《種族誌・第三改訂版》によると、種族ごとに固有スキルが存在するらしい。

ドワーフは地を操り、竜族は竜化ができる、だとか――


……そういえば、水魔法なら水を、風魔法なら風を操る。じゃあ、生命魔法は……生命を? いや、抽象的すぎるだろそれ。


でもよ? 人体の六割は水でできてるんだよな……ってことは、理屈の上では水も扱えるか?

いや、さすがにリカの部屋で実験するのはまずいか、一旦外だな。





「<水よ、来い>、<ウォーター>、<ハイドロポンプ>」


と軽く詠唱してみるが、水は出ない。まあ、水を自在に操れるなら水魔法使いが要らないわけで……

そこで、ふと思いつく。

生命……じゃあ血ならどうだ? 確か……血の構成物は、Fe、O₂、H₂O、Cだっけか……よし、この密度を上げて、弾丸に再構築――そんなイメージを頭に描き、指先を近くの木に向ける。

……もちろん、魔法のイメージは拳銃だ。


「<ブラッドショット>」


すると指先から血の弾丸が生成され、まっすぐに飛んで木にめり込む。弾速はおそらくマッハ1前後、威力も普通の銃弾と遜色ない。


……血ならいけるのか。よし、次は散弾銃のイメージだ。


「<ブラッドバレッド>」


空気が震え、周囲に無数の血の弾が浮かび上がる。

それらは一斉に放たれ、轟音を残して木の表面を抉り取った。

……人間相手なら、間違いなく即死だ。


「すげぇな……本当に銃を撃ってるみたいだ」


ただ、威力だけなら単発の<ブラッドショット>の方がわずかに上だな。

弾が一点に集中する分、貫通力が段違いだ。


――俺の早撃ちの最速記録は0.05秒、タイマン勝負なら早撃ちの速さで勝負が決まる。となりゃ、<ブラッドショット>のほうが、タイマンでは使えるか。


それに、魔力で血を生成してるから、貧血の心配もない。

逆に出血しすぎたら、魔力で自己輸血すればいいだけ……まあ、その時に魔力切れしてたら、笑えねぇけどな。


今、俺が使える魔法は<アドレナリンサージ>と、スライムの蘇生で使った<細胞ブースト魔法(仮)>くらいで、正直ラインナップとしては心許なかったが、ブラッド系の魔法がこの威力なら、狩りでも護身でも十分通用する。

あとは……そうだな。


「……回復魔法か」


一応、<細胞ブースト魔法(仮)>も回復系ではあるのだが……

あれは科学の塊で、ファンタジー感が皆無なんだよな。

もう少し“らしい”ヒール魔法ってやつを、俺も使ってみたい。

《種族誌・第三改訂版》によると、ドルイドや妖精族も<ヒール>は使えるって話だし、生命魔法でもいけるはずだ。


俺はナイフを取り出し、指先に軽く刃を当てる。

 

「<ヒール>」


唱えた瞬間、傷口が緑の光に包まれすっと塞がっていく。

<細胞ブースト魔法(仮)>とは明らかに違う感じがする。

おそらくあっちは生体活性、こっちは再生促進って感じか?

とりあえず、ちゃんと回復はしてるみたいだな。


次に、さっき撃ち込んだ木の幹へ手をかざす。


「<ヒール>」


緑の光が木の表面を覆い、ゆっくりと血弾で焦げた部分が修復されていく。

だが、俺の時より反応が鈍い。自然物のほうが再生に時間がかかるのか?


「……なるほど。じゃあ、これはどうかな」


俺はもう一度木の幹へ唱える。


「<ハイヒール>」


すると、先ほどよりも明らかに速い速度で焦げ跡が癒えていく。

さっきまで黒ずんでいた木肌が、瞬く間に元の色を取り戻した。

これなら、誰かが怪我をしても問題なさそうだ。


ふと、さっき切った指を見ると血がすでに乾いていた。


「血液凝固か……」


フィブリン網を通常よりも密に、規則正しく組み上げることができれば、武器すら生成できるはずだ……これも理屈的には、だが。


「……よし、とりあえず試してみるか」


手のひらに魔力を集中させると、赤い粒が集まり形を成す。


「<ブラッドソード>」


瞬間、手の中に真紅の剣がスッと現れた。

血液が固まり、ガラスのような光沢を放つ――見た目はロングソードだ。

試しに指先で軽く叩くと、カンッと乾いた金属音が響いた。


「……硬度、十分。なのに、やけに軽いな」


構えてみると、重心がしっかりしていてブレがない。

……血液由来の武器だから、分子結合の密度を魔力で制御してるってことか?

つまり、魔力量次第で鋼よりも硬く、カーボン並みに軽くできるってわけだな。


「……理論上は、切れ味も魔力次第で変化する。魔力を流し続ければ、再生も自己修復も可能……か。――へぇ、便利じゃねぇか」


……だが皮肉なもんだ。血の匂いなんざ、もう二度と嗅ぎたくなかったのにな。

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