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第46話 『蒼閃』

「新人冒険者、イザナ選手! 対するは、C級パーティー『ブレイブ』所属、槍使いのカイル・ハーランド選手!!」


審判が一歩前に出て、演習場全体に通る声で告げた。


「……やっぱ、お前なのかよ」


「おっ、イザの医! いや〜、まさか決勝で当たるとは思わなかったわ」


槍を肩に担ぎ、演習場の中央に立つカイル。

だが、「思わなかった」なんてそんな素振りは微塵もない。


そういえば、昨日、リュナがぼそっとリカに言っていた……「あいつ、間違いなくB級上位はある」って……それに、俺が戦ってたとこ以外にも、別のブロックはいくつもあったはずだ……それなのに、よりにもよって、ここで当たるか?

 

いや……もしかしたら、カイルが裏で糸を引いて、俺の腕を確かめに来たとか……そんな可能性も、なくはない……か。

 

「てか、それよりだな。お前、剣技大会なのに槍なのかよ……あとよ、勇者のパーティー所属ってどういうことだ?」


「あー、俺ぁ〜別に勇者の腰巾着じゃねぇよ、仕事だから一緒にいるだけだ。それに、槍使いが槍使わねぇでどうするよ? 大会だろうが何だろうが、得物は変えねぇよ」


「……ふーん」


軽く相槌を打ちながら、俺はカイルを改めて見る。

普段はお調子者で仲間想い。だが実際は、誰よりも冷静で、誰よりも達観している。

勇者を内心では軽蔑しつつ、それでも見捨てずに付き合っているのは……多分、こいつ自身の矜持と心の強さなんだろうな。

 

「――両選手、私語はそこまで!」


「……だとさ」


「世間話は後にしようぜ」


カイルはそう言って、槍を軽く回し、すっと構えに入った。

……隙のない、いい構えだ。


「両者、構えッ!」


俺も剣を正眼に構え、深く息を吐く。


「始めッ!」


その合図と同時――先に仕掛けたのは、カイルだった。


一歩目で一気に距離を詰め、正中突きが真っ直ぐ俺の心臓を狙って突き出された。


――速いッ!


槍使いとの実戦は初めてだが、カイルの攻撃は端から見ても異様に速いだろう。

いや、正確には、動きそのものが速いというより、攻撃に至るまでの「間」が極端に短い。

  

剣や斧であれば、構え、振りかぶり、そこから攻撃に移るという工程があるが、槍は違う。

一歩前に出る、その動作そのものが、すでに攻撃になる為に、剣特有の溜めは存在しない。


前進運動=攻撃。


「っ――!」


正中突き……最速、最短、最強――槍の基本にして完成形とも言える一撃だ。


反射的に剣で受け、穂先を弾くが、間を置かず槍が横薙ぎに振り抜かれ、間髪入れずに剣戟が再び始まる。





それから、二合、三合と打ち合った。


槍は本来、リーチで戦う武器――だが、それゆえに弱点もはっきりしている。


使い手と相手の距離が一気に詰められた瞬間のみ、状況は逆転する。

懐に入られ、密着を許した槍は、そのリーチ長さそのものが枷となり最大の強みを失う。


俺は一度距離を取り、再び加速する。

放たれた五月雨(さみだれ)突きを、剣で弾き、逸らし、捌き切る。


その勢いのまま踏み込み、横薙ぎに振られた槍を打ち払って踏み留まる。


……そしてついに、剣と槍柄が、至近距離で噛み合った。


「……なあ」


一瞬の鍔迫り合いの中で、視線を外さずに俺は続ける。


「これだけ強ぇのに……なんで、C級で止まってんだよ」


「昇格なんざ、どうでもいい。それにA級になったら貴族の尻も舐めなきゃいけねぇんだよ。接待、護衛、派閥争い……武器じゃなくて、頭下げる仕事が増えるだけだ、そんなのは御免だね」


力を込め、俺の剣を押し返そうとする。


「……クソ勇者のケツ拭きはしてるくせに」


「ああッ!! まあ、でもよ……貴族の世話よりかは、まだマシだぜッ!!」


その言葉と同時に、槍柄を下に引き、体を沈め、そのまま――下から槍の穂先が、アッパーカットの軌道で突き上げられる。


「――っ!」


俺は即座に身を引いて回避するが、避けきれず……頬を浅く裂かれた。


槍は詰められると弱い、だが――それを一番理解しているのも、使い手であるカイル自身。

距離を潰される前に、距離を奪い返す、その判断も速い。




 

互いに跳び退り、距離が開く。

一瞬の仕切り直し。





そこから先は、もう言葉はいらなかった。


剣と槍が何度もぶつかり合い、火花が散る。

……互いに一歩も引かない。


(……イザの医……やっぱ強ぇ……今はF級だが、剣だけ見りゃどう見積もってもC級相当、それに……まだ本気じゃねぇよな、これ……魔法も合わせりゃ下手すりゃB級……いや、それ以上か? それに、こいつの剣――殺気は薄いくせに、妙に研ぎ澄まされすぎてる……これは剣士じゃねぇ……まるで――殺し屋(アサシン)だな……)


カイルの脳裏に浮かぶ確信。

それでも、この試合が心の底から楽しいと感じている自分がいた。

……そして、その感覚は俺もまた、同じだ。


剣と槍が連続して打ち合う中、槍を弾き、振り払い、引き戻す……その攻防が切り替わるその戻り際、俺にほんの一瞬の隙が生まれてしまった。


(――そこだッ!)


カイルの腰が深く落ち、槍が低く構えられる。


蒼天一槍流そうてんいっそうりゅう

――蒼閃そうせん


技を解放した刹那、槍の穂先が蒼く光り――空を裂くほどの高出力貫通突きが、俺めがけて一直線に放たれた。


「……え?」


――速すぎる……いや、これは……。


「待てッ!!」


審判の怒声と同時に、鋭い笛の音が演習場に響き渡った。


「あ」


カイルも、はっとした顔になる。


「試合停止!!」


蒼い光が霧散し、会場が静まり返った。

カイルは槍を止めたまま、はっとした顔で俺を見る。


「……あー」


「……今の……スキル、だよな?」


「……だな」


「カイル・ハーランド選手! 剣技大会において、スキルの使用は禁止されています! よってこの試合、勝者――イザナ選手!!」




一瞬の静寂の後、会場は歓声に包まれた。

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