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第45話 『剣技大会』

俺は今、剣技大会の四試合目を終えたところだ。

会場は昨日ラグナスと手合わせした演習場で、観客席にはこの大会に参加するパーティーメンバーや家族らしき人たちがぎっしり詰めかけ、歓声が飛び交っている。


さて、ここまででE級が二人、D級が二人……なんとか全勝だ。


ちなみに、次の対戦相手はC級パーティー「ブレイブ」のリーダー、テオドールという人物らしい。


……こいつに勝てば、いよいよ決勝だ。


そんなことを考えつつ歩いていると、さっきの対戦相手の貴族たちがやたらと俺に声をかけてきた。


「イザナさん、さっきの試合すごかったよ! これ食べて! 次も応援してるからな!」


「いや〜見事だった! ほら、これ差し入れ!」


気づけば、小袋のお菓子を次々と渡されていた。


「……あ、ありがとう」


ほんと、ピエイの街の貴族はマジであったけぇ……。

さっきも試合の前には、必ず相手が名前とランクを名乗ってから始まり、試合中ですら「ナイス!」だの「いい踏み込み!」だの、気軽に声をかけてくれた。

……ていうか、あれだな。金持ち特有の余裕ってやつも多分あるんだろうな。


異世界転生あるあるだけど、「異世界の貴族=性格最悪」みたいなテンプレとは全く違っていて、逆にちょっと調子狂う。


いや、別に悪いわけじゃない。むしろ、マジで気持ちのいい奴が多くてありがたいが……予想外すぎて、俺の中の異世界像が微妙に狂ってきてるんだよな……。








それから少し時間が経った。

懐中時計を確認すると、ちょうど三時を指していた。


……さて、そろそろ俺の番だな。


会場へ向かって歩いていくと、すでに中央には対戦相手のテオドールが立っており、笑顔で俺に手を差し伸べてきた。


「俺はD級冒険者のテオドール・ディ=バレンティア! 職業は勇者だ! 今日は君に勇者の剣というものを見せてあげよう!」


やたら堂々とした挨拶だが、一応手を差し出してきたので、俺はその手を受け取ろうとしたのだが……その直前、テオドールは俺の手を振り払い、観客席に座る貴族の女性へと視線を変えて営業スマイルを始めた。


……ああ、なるほどな。握手なんて最初(はな)からする気はないと。


「F級冒険者のイザナです。よろしく」


手を引っ込め、適当に挨拶を終えると、テオドールは観客席に届かないくらいの小声でこう言った。


「(──よく聞け、雑魚。ここは俺様の見せ場だ。君みたいな下級職は、せいぜい俺の剣技を大人しく見ていればいい……いや、そもそも君はヒーラー風情か……ここは、君のような落ちこぼれが立つ場所じゃないんだよ……わかったかい?)」


「は、はぁ……?」


前言撤回……さっきまで「マジで気持ちのいい奴が多い」なんて言っていたがこの男だけは別だわ。


言葉の端々から滲む選民意識、見下すというより、俺――ヒーラーを人間扱いしてない。


「(あぁ、君、早く棄権しなよ? お前みたいな底辺職じゃ俺には勝てないよ? あ……まぁ、ヒーラーなら頭が弱いのも仕方ないか)」


軽く鼻で笑いながら、再び観客に爽やかな笑顔を向けるテオドール――その裏で、俺に向ける視線だけは、明らかに「ゴミを見る目」だった。

 

……あー、完全にナメてるな。


「……へぇ、そうかよ」


俺がそう呟いた瞬間。


「両者、構えッ!」


審判の声が会場に響いた。


「(楽しみにしてるよ、君が泣き叫ぶ瞬間をね)」


「さて……泣くのは、どっちだろうな」


「……はァ?」


軽く返しただけなのに、テオドールの眉がピクリと動いた、その直後――


「始めッ!」


その審判の合図と同時に、テオドールは一直線に俺に向かって突っ込んできた。


「舐めてんじゃねぇぞッ!!」


至近距離で剣を大きく振り下ろすテオドール。

だが、予備動作が丸見えだ。振り下ろしと同時の踏み込みの時、重心が浮いてる。


これじゃ狙ってくれって言ってるようなもんだ。


そこで俺は、振り下ろしの軌道に剣の根元を合わせて受けた。

対してテオドールは、剣先に力を全部乗せてしまっている――かなり不安定な構えだ。


だから、ほんの軽く根元で受け止めただけで、テオドール自身が剣に込めてた力がそのまま彼の上半身に跳ね返り、その反動で踏ん張りが効かなくなった。


……剣を全力で振ってくる奴に対し、剣の根元で受けたらこうなる。

テコの原理で力が全部、自分に返るんだよ……ツルハシで硬い岩を振り抜いたとき、大きく跳ね返るのと同じ理屈だ。


「な、なに……!?」


テオドールは理解できていないようだが、俺はもう十分だ。

この一撃だけで、実力は大体分かった。


続けざまに二撃、三撃……。

速いには速いが、重心が流れる癖も、踏み込みの癖も、全部丸見えだ。

軌道が単調すぎて、こちらもただ単調に受け流すだけの作業になっていく。


「っ……なん、で……当たれよ……クソ……!」


「どうした? 俺を泣かせるんじゃなかったのか?」


「う、うるせぇぞッ!! ヒーラーごときが……調子に乗ってんじゃねぇ!!」


顔を真っ赤にし、唾を飛ばしながら叫ぶテオドール。


興奮のまま、上段突きと見せかけての突きを途中でキャンセルし、剣を大きく回しながら下から逆袈裟に斬り上げてくる。


逆袈裟そのものは悪くない……悪くないが、この手の変化技は、リュミナと何十回も打ち合って見慣れている。

それにこいつの場合は、重心が前にかかり過ぎだ。


突きのフェイントで上体を前に送りすぎて、次の斬り上げで踏ん張りが効いていない。

言ってしまえば、倒れかけのところに剣をただ振り回しているだけだ。


だから俺は最小限の力で逆袈裟を受け流し、テオドールの剣を外側へ押し返す。

その反動のまま、踏ん張りどころを失ったテオドールは、前へ倒れ込む一歩手前のような体勢になった。


「なっ……!?」


ちょうど俺の目の前にスキだらけで差し出されるテオドール。


……まあ、せっかくだし。


俺は剣をくるっと反転させ、柄頭で額をコツンと軽く叩いてやった。


これくらいなら、煽られすぎた分の仕返しにはちょうどいいだろう。


「いっ……たぁ!? な、なにを……ッ!!」


だが、体勢が崩れていたテオドールには、それだけでも十分過ぎたらしい。

本当に軽く額をこづいただけなのに、足元がぐらつき、そのまま俺の目の前で派手に転んだ。


……いや、さすがに転ぶほどの力は入れてないはずなんだが。


「……お前、大丈夫か? 足、捻ってないか?」


一応、相手を気遣う。

まあ、戦いの最中に柄頭で額を叩かれるなんて、相当な恥だとは思うが……今までの相手は礼儀がしっかりしていたし、それに(なら)ってこっちも怪我の確認くらいはしておくか。


しかし、観客席からは、「うおおおおおお!!」と歓声が湧き上がってて何故か、盛り上がってる。

……まぁF級の雑魚ヒーラーがC級負かせてたら流石に興奮するか。


「ふ、ふざけるなああああああぁぁッ!!」


今にも噛みつきそうな形相で、剣を握り直すテオドール。

そして、その剣を俺に突き立てると――その剣先に光が一気に収束し始めた。


……スキルか!? いや、魔法や職業スキルの使用は禁止のはずだ! 何やってんだこいつ!


「待ったァッ!!」


審判が声を張り上げ、即座に二人の間へ踏み込む。


「テオドール選手! 剣技大会ではスキルや魔法の使用は一切禁止だ! 今のあなたの行為は重大な反則行為であると同時に、額に剣を受けた時点で勝敗はすでに決していた! よって、この試合、勝者、イザナ選手!!」


「な……っ!? お、俺はまだ負けていない!!」


テオドールは地団駄を踏み、顔を真っ赤にしながら震え、


「俺が……この俺が……ヒーラーごときにッ!!」


と呟き、信じられないという顔で立ち尽くしていた。


「……これで勇者……なのか? 瞬殺どころか、戦った気すら……まあ、いいか」


俺はひとつため息を吐くと、剣を肩に担ぎ、もう興味も失せたとばかりに背を向ける。


……こんな小物、相手にするだけ時間の無駄だ。




  


そして歩き出してしばらくしたところで、ふと、さっき貴族から貰ったお菓子の小袋を思い出した。


……小腹も減ってきたし、ちょうどいいな。


そして、包みを開けて、中に入っていた菓子をひとつつまみ、そのまま口へ放り込む……


「……クソうまっ! なにこれ……生サブレじゃん……しっとりしてて口の中で溶ける!」


……うん、もういいや。

さっきのクソ勇者との試合なんて、この生サブレの前では完全にどうでもよくなった……てかこれ、どこで売ってんだよ……決勝終わったら買いに行こうかな。


それはそうと、次の対戦相手は……。


「……あ?」




――対戦相手:カイル・ハーランド

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