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第42話 『ダンジョンの噂』

整理工房を出て、俺たちは商店通りをゆっくり歩いていた。


メイカの店もそうだが、ギルドの中に工房を構えられる時点で、実力は折り紙付きだろう。


それに、武器、防具、アクセサリー、ポーション、そして整理師……ギルド内だけで、冒険者の必需品が全部揃うようになっている。


こういう合理的な仕組みを考えたのは、十中八九元冒険者だろうな、現場の苦労を知ってるやつの発想だ……ありがたい。


「イザナ様〜、どこ行くのー? お腹減ったー」


リュナが俺の袖を軽く引っ張りながら、子どものように訴えてくる。

 

「ちょっと武器も見とこうと思ってな〜。ブラッドソードより耐久あるやつなら欲しいんだけど……お前も、もっと強度あるやつ欲しくないのか?」


さっきの戦いで、俺の剣はラグナスの一撃に耐えられず粉々に砕け散った。

もちろん、俺自身の腕を上げるに越したことはないが、結局魔力が無くなれば剣は出せない。

そうなった時の為に実物の武器が一本あるだけでも生存率はかなり上がるはずだ……そう思ったのだが。


「ん〜? 別にどうでもいい〜。竜化して戦えばいいし〜、いらない〜」


「いや、そう言うなよ。それにストームレイヴンには力負けしてただろ?」


「むぅ〜……でもね、あれは武器のせいじゃない。リュナの力が足りなかっただけ……だから、それは〜リュナがもっと強くなればいいだけだよ〜。でも今は暴牛王も食べたし、前よりずっと強くなってるもん」


「はいはい」


……こいつ、たまに核心ついたこと言うから困るんだよな。





そんな話をしているうちに、装備屋に着いた。

店内は落ち着いた感じで棚も整然としているが、肝心の武器が全く置かれていない。


……武器用のラックやスタンドはあるんだが、まさかここも整理師みたいに空間から出す感じなのか?


「いらっしゃい」


太い声とともに、バックヤードからガタイのいいスキンヘッドのおっさんが出てきた。


「すみません、武器ってもうないんですか?」


「はぁ……兄ちゃん、武器不足なの知らねぇのか? つい最近、この街の近くで新しい深層ダンジョンが見つかったんだよ。おかげで冒険者どもが押し寄せてな、武器っつー武器、全部売れちまったわ……まぁ一応、バックヤード確認してきてやるよ。ちょい待ってろ」


「え、あっ、ありがとうございます!」


わざわざバックヤードに見に行ってくれる辺り悪い奴じゃなさそうだな……にしても深層ダンジョンか、ちょっと興味あるな。





しばらくして、おっさんがバックヤードから戻ってきた。


「やっぱ、装備品以外なんも残ってなかったわ。だがまぁ〜、その端の樽の中にある型落ちの武器と防具なら、銀貨一枚で売ってやるよ。好きに漁りな」


「やったー! 宝箱だー!」


さっきまで「武器いらない〜」とか言っていたリュナが、歓声を上げて樽の中の武器を両手でわしゃわしゃいじくり回す。

……完全におもちゃ箱を漁る子どもそのものである。


言ってることとやってることがさっきと矛盾してるが、まあいいか。

今の小剣よりマシな物は無さそうだが、リュナ用のおもちゃくらいなら買ってやってもいいかもな。

 

そんな俺たちの様子を横目で見ながら、おっさんが「ふんっ」と鼻を鳴らした。


「そういや兄ちゃん、ここらじゃ見ねぇツラだな」


「ああ。昨日この街に来たばっかりで、まだ何も知らなくてさ……その、さっき言ってたダンジョンってやつ……教えてもらえないか?」


「ふん、しゃあねぇな、この街はダンジョンの街とも呼ばれてんだよ。大雪山から濃い魔力が流れてるってのは知ってるだろ?」


「ああ、それはなんとなく」


「それだけじゃねぇんだ。街を出て東に少し行くと青い湖ってのがあるんだがな……あそこも魔力の塊みてぇな場所で、珍しい素材も時々拾えるから、前から冒険者がよく行く場所なんだよ」


おっさんは指をトントンとカウンターを叩きながら続ける。


「でだ、つい最近、その青い湖の裏手にダンジョンが出現した。そりゃあ冒険者どもが群がるわけだな! 結果、うちの武器は全部売り切れってわけよ」


「なるほどな……」


「それにな、そのダンジョンは深層って呼ばれてて、最深部にはカリバーンがあるって噂よ。湖が青く見えるのも、そのカリバーンが影響してるんだとかどうとかでな」


「カリバーン……?」


カリバーンは知ってる。

確かエクスカリバーの前身とされる剣だ。


確か、アーサー王がエクスカリバーを湖に返還し、契約解除、そして王位を手放した……神話上はそんな扱いだったはずだ。

湖付近に眠っているって話しなら、一応は神話との整合性が取れている。


ただ、契約解除のあと、アーサー王はアヴァロンへ向かい、世界の外へ去ったとされる。

そんな曰く付きの遺物なんて、手に入ったところでろくなことにならないだろ。


もちろん、聖剣には興味はない……だが、ダンジョンの方は別だ。


「俺はF級冒険者なんだが、ダンジョンって行けるのか?」


「あぁん? F……か。なら荷物持ちか素材回収班の募集があるだろ? それに、ボスの部屋前まではもう攻略済みだ。早けりゃ今週中には討伐隊が出るだろうから受注するなら早めに行っとけ」


「ありがとな、助かった」


そう言っておっさんに頭を下げたところで……


「イザナ様、これ見て!!」


リュナが樽の中から持ってきたのは、薄桃色のもこもこブーツだった。


うさぎみたいなチャームが付いててどう見ても戦闘用というよりただのかわいいブーツだ。

……クマノが着てた白クマ着ぐるみと同じ系統にしか見えんのだが……。


「かわいい……♡」


目が完全にキラッキラしてる。


「タルに投げ売りされてたやつか……たしかに可愛いな」


「そいつはな、本来は上級冒険者用のブーツなんだよ。素材もいいし性能も高い……だがサイズが小さすぎるのと、呪いを解除できなかったせいで売れ残ってたんだ」


「呪い?」


おっさんは腕を組み、面倒くさそうにしながらも説明を続けてくれる。


「そうだよ。解除にも金がかかるしよ、なにより……履いたら脱げねぇんだよそれ……紐が勝手に締まって、別の靴履こうとしたら絡んで邪魔してくるんだわ」


つまり、呪われた装備なんざ誰も欲しがらないってわけで……この樽の中に放置されてたということだろう。


でも、呪われた装備か……俺の観察眼なら呪いの効果とか……見えるか?




対象:ミスティ・ラビット

状態:軽呪

効果:狂跳の呪い。履いた人間の跳躍力を勝手に強化する呪い。

共鳴依存。気に入った持ち主にくっつく呪い。




軽呪……初めて見る評価区分だが、軽と付くわりに内容はかなりめんどくさそうだな。


「リュナ、それはやめとけ。跳躍力が勝手に強化される呪いみたいなんだ」


「リュナ、これ使いこなす。……だから大丈夫だよ?」


「そうか? ならいいけど……じゃあこれもらってくぜ」


迷いのない笑顔……まあ、こいつがそういうならいいだろう。

それに、本当にヤバかったら捨てればいいだけだしな。


銀貨をカウンターに置き、俺とリュナが出口へ向かった……その時。


「……おい、兄ちゃん!」


「お、おう?」


ん? なんか悪いことしたかな……?


振り返ると、おっさんが眉間に深い皺を寄せ、じっとリュナの足元を見ていた。


「……その靴、子どもが履くには……ちっと、訳アリすぎる」


「まあ、こいつが履くって言ってるから気にすんな」


「はぁ……しゃあねぇな。ほら、これ持ってけ」


ぶつぶつ文句を言いながらも、奥の棚をガサガサと漁り、おっさんは何かをつかんで戻ってくると、そのままドサッと俺の手に押しつけた。


「なんだこれ?」


「泥落としブラシと、魔力通し用の油だ。それとその子の剣見せてみろ」


リュナが素直に「はーい」と言って小剣を差し出すと、おっさんは顎に手を当てながらじっくりと刃を眺めた。


「……やっぱ魔鉱か。しかも相当いいやつだな。だがこれなぁ……」


「……良くないってことか?」


「……荒れぇ、鍛えたやつの腕前は悪くねぇが、仕上げが雑だ。もったいねぇ!! 俺が少し研いでやるよ、こいつぁ本来もっと切れる剣だ」


刃を指で軽くなぞり、細かく角度を変えながら覗き込む。


その横で、リュナはむくれた顔でじーっとおっさんを睨んでいた。

自分で魔鉱を溶かして作った剣を雑と言われて不満だったのだろう。

 

「そんなことまでしてくれるのか?」


「当たり前だろ。武器を泣かせたまま持ち歩かせる職人がどこにいる……明後日までには仕上げる」


「で、いくらだ?」


「全部タダでいい」


「……タダ?」


「当たり前だ。俺の勝手でやるだけだ」


おっさんは「たぁーだぁーし」と前置きし、ぐっとリュナの靴を指さす。


「その呪いが暴走したら、迷わず捨てろ。命より装備が大事なバカはいねぇだろ?」

 

「ありがとう。恩にきるよ」


そう言って店を出た。


……呪われた装備で子供が死んだら責任取れねぇからそれとなく口止め料ってわけか。

まあ、それでもタダで色々くれたし……結局いい店だったな。


次から、常連になってもいいかもな。





 




装備屋を出て、リュナと二人で商店通りを歩いていると、露店で売られてるアイスが目に入った。


「イザナ様! これ食べたい!」


結局ひとつずつ買って歩きながら食べていると、ちょうど角を曲がったところでリカとばったり出会った。


「あっ、お二人ともアイスなんて食べて……私も食べたいです!」


どうやらアクセサリー店での用事が終わって、俺たちを探しに来てくれたらしい。

合流した流れで、そのまま三人で歩きながらアイスを食べる。


「これ、美味しいですね〜、もったりしててトルコアイスみたい」


「ね! 美味しい! あと靴ありがと〜。イザナ様は買わなくていいの?」


リュナは例のブーツで楽しそうにぴょんぴょん跳ねている。


「俺はいいや、また今度……それより、ダンジョンに興味ないか?」


「ダンジョン……ですか?」

「もちろん行くー!!」

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