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第38話 『パーティーの誘い』

関所まで辿り着き、懐中時計で時間を確認すると、すでに夜の十一時を回っていた。

かなり急いだつもりだが……道の悪さを考えれば、むしろ早く着いた方だろう。


関所では、俺たち以外にも、荷車を引く行商人らしき人たちが出入りしていた。

この時間でも意外と往来があるからなのか、俺たちの姿を見ても、特に怪しまれる様子はない。


「三人分、銀貨三枚。身分証の提示もお願いします」


言われた通り銀貨を三枚渡し、旅人証を見せる。

門番は旅人証にざっと目を通しただけで、面倒くさそうに顎をしゃくり、通っていいぞと言わんばかりの反応を返した。

利用する人も多いからだろう、対応は必要最低限だ。


……だが異世界転生あるあるの、関所の門番と揉めて追放されるイベントは無事回避だ。


街に足を踏み入れると、まず目に入ったのは整った街並みだった。

ゴシック調の建物が多く、外壁には複雑な装飾が施されている。


通りの中央には、剣を掲げた勇者らしき人物の銅像が建てられており、その肩には、小さな妖精がちょこんと乗っていた。

……おそらく、この国の英雄とかそんなところだろう。


これも異世界転生あるあるなんだが、路地裏にありがちなスラム臭は全くない。

ホームレスらしき人も居ないし、奴隷が鎖につながれて歩いているような光景もない。

まあ、三十万人都市ともなればそれなりに税収も多いのだろう。街の福祉に、しっかり金を使ってる感じがする。


……それはさておき、この時間でも営業している宿屋はあるのかね。





関所から少し歩いたところに、ちょうど宿屋らしき建物があったので、今日はそこで泊まることにした。

それにしても一部屋で銀貨三枚か……普通に安いな。


部屋に入ってみると、ちゃんとベッドと毛布が用意されており、簡易的ではあるがシャワーまで付いていた。

安かろう悪かろうという覚悟はしてたが思ったよりずっと良かった。

 

シャワーね……そもそもこの世界には上下水道があるのか?


一瞬そう思ったが、よく考えれば中世ヨーロッパですら上下水道は一応整備されていた。

ましてやここは異世界だし、魔道具のひとつやふたつで、生活排水を浄化したって不思議じゃない。


もし排水を垂れ流しているような街なら、今ごろペストだのコレラだのその他の感染症が蔓延しているはずだが、そんな気配は全く無い。

衛生環境は相当いい方なんだろう……知らんけど。


さて、ベッドに倒れ込む前にどうするか。

正直、今日は歩き通しで眠いが、街に来た以上、情報収集もしておきたいところだ。


「シャワー、先に使わせてもらってありがとうございます」


そう言いながら、リカが寝室に戻ってきた。

薄いピンクのパジャマ姿で、クリーム色の髪は風魔法で乾かしたせいか、ふわふわと柔らかく膨らんでいる。


「おん、気にすんな」


「リュナさんはもう寝てるんですね……私もそろそろおやすみしますけど、先輩はどうします?」


あぁ、リュナとリカも相当疲れてたんだな。

……十時間以上も歩いてたんだ、そりゃ無理もないか。


「俺は、ちょっと散歩でもしようかな。夜風に当たりたい気分だ」


「そうですか。では私は先に休みますね……先輩も、夜は気をつけてくださいね」


「ありがと。おやすみ」


そう言って、手元のランプをそっと消してやる。


さて……少し散歩でも行くか。




 


宿屋の近くに、人の出入りの多い酒場があったので、そのまま入ってみることにした。


酒場というのは、世界共通で情報が漏れやすい場所だ。

酒が入れば判断力は落ちるし、気が大きくもなる。

秘密を抱えている人間ほど、酔ったときに誰かに話したくなるものだ。

つまり、情報収集するならこれ以上の場所はない。




入ってみて分かったのだが……ここは酒場というより、どちらかといえばバーに近い。

シモカプ村のような賑やかな酒場とは違い、叫んで騒ぐ客はひとりもいないし、冒険者らしき姿もほとんど見えない。

代わりに、シャイなのか慎ましいのか、小さくグラスを傾け、ちびちびと酒を味わっている客が多かった。


社交的な奴は少なそうだな……情報もあまり取れなさそうだ。

だが、何も頼まず店を出るのもアレなので、メニューをひと通り眺め、とりあえず一番安い酒でも頼んで次の店に行こう……そう思っていた、その時だ。


俺の隣の席に、ひょいと茶髪の青年が腰を下ろした。


身長は180センチほどで、額には赤い鉢巻きを巻き、鋭い目つきに加えて背中には真紅の槍まで背負っていた。


……なんだこいつ、冒険者か? それにしてもあの槍、どう見ても相当重そうだが、歩き方にも姿勢にも重心のブレが一切ない……こいつは相当なやり手かもな。


「マスター、クリムゾンラガーと、ミニフィッシュの唐揚げ、あとは今日入った一番いいチーズを、俺と隣の彼にお願いしてもいいかな?」

赤槍の男は、慣れた口ぶりで注文する。


「あいよ」

マスターが無愛想に返事をした。


店内は混んでいるが、カウンターには俺以外誰も座ってない……隣の彼って、どう考えても俺のことだよな。


「俺の分まで頼まなくていいんだが……あ、チーズはクセの少ないやつで頼む」


「この街は初めてかい? イザナさん」


「……なぜ俺の名を知っている?」


「挨拶が遅れたな、俺はカイル・ハーランド。鬼人なんて呼ばれてるが……まあ、冒険者じゃなきゃ知らなくて当然か」


茶髪の青年は、ようやくこちらに視線を向け、爽やかに笑った。


「質問の答えになってないぞ。なぜお前が、俺の名を一方的に知っている?」


「あぁ、すまない。単刀直入に言うがグレインの件と言えば分かるかな?」


グレインか……なるほど、俺があいつを倒したって事実が漏れたってことか。

だが、どこから漏れた? あの場には、俺たち以外誰もいなかったはずだ。

クマノが負い目を感じて「報酬はイザナに」なんて言ったのか? ……いや、あいつが言ったとしても、セシアが止めるだろう。

 

「クマノとセシアに報酬を渡すじゃダメだったのか?」


「報酬なら、ちゃんと彼らに渡したさ。そこは心配しなくていいんだが、俺が聞きたいのはそこじゃない……なぁ、イザナさん? ヒーラーって、あんな火力出んのか? 俺の知ってる常識とは真逆だぞ?」


なるほど、戦闘の一部始終、見てたってわけか。

裏でこそこそ俺たちを監視していた……ってところだろう。


……侵害だな。


「はぁ……つまり、俺らのことを監視してたってわけか?」


「おおっと、違う違う。俺はグレインを処分しに来たギルド職員なんだよ。監視なんてしちゃいないさ」


カイルは両手を軽くひらひらさせ、苦笑混じりに首を振った。

そのタイミングで、ちょうどマスターが料理を運んできた。


「はい〜、お待たせ〜。クリムゾンラガーと、ミニフィッシュの唐揚げ、それと、妖精の乳月(ちずき)だ」


カウンターに料理が次々と置かれていく。


……緊張感が一瞬で抜けた。


「おおっ、妖精の乳月が入ってたのか! イザナさん、遠慮すんな、ほらほら食ってくれ!」


カイルは子どもみたいに目を輝かせ、皿をぐいっと押しやってくる。


「……あぁ、ありがたく」


妖精の乳月ってなんだ……?

妖精の乳のチーズ……なのか?

そう考えると、なんか叡智(えっち)な食べ物だな……。

そういえば、さっき見た勇者らしき銅像の肩にも妖精が乗っていたが……あんなちっこい妖精からチーズを作れるほど乳が出るとは思えない。


クリムゾンラガーの方は、名前通り赤みの強いコーラって感じだ。

ミニフィッシュの唐揚げは、ちょっと大きめのわかさぎの唐揚げだな。


「これはな、妖精の加護を受けた家畜の乳から作るチーズなんだよ。こんな高級品、そうそう食えねぇぞ……もぐもぐ……うめえ!」


カイルは幸せそうに頬張りながら、目を細めている。

……なんか、この表情を見る限り、悪い奴ではなさそうだな。


さてさて、俺も……妖精の乳月をひと口。


――ッ!?


口に入れた瞬間、とろりと溶けて舌に広がる。

なんだこれ……クセが全然ねぇ。

それどころか、鼻に抜ける香りがやたら上品だ。


……こんなの、前の世界でも食ったことがねぇ!


「うまいだろぉ!? 乳月もいいけどよ、クリムゾンラガーとミニフィッシュの唐揚げの組み合わせが、俺がいっっっちゃん好きなんだよ……ほら、食ってみな?」


「あ、あぁ……」


ミニフィッシュの唐揚げを口に運ぶ。


――味、濃ッ!!

でも嫌な濃さじゃない。塩気がしっかり効いてて酒に合わせて作った味だ。


続けて、クリムゾンラガーを一口。


……お、こっちはスッキリしてて飲みやすいな。

見た目どおり、コーラのような味だ。

酒感はほとんど無いが、強めの炭酸が喉に効いて気持ちいい。


「……全部、うまいな」


「な? 少しは自分の魔法について話す気になっただろ? この地方じゃな、“人と話したかったら酒かサウナを奢れ”って格言があるんだよ」


こいつ、なかなかやり手だな。

生まれる世界が違えば、諜報員にでもなってそうだ。


まあ、俺の魔法も隠すほどのものでもないし、話してもいいだろう。


「俺の魔法は生命魔法だ。普通にハイヒールもできるし、一応……攻撃魔法も多少はできる」


「ハイヒールができるヒーラーとなれば、魔力回路が治癒特化で固まっているはずだ、なおさら攻撃魔法なんて使えないだろ?」


「それくらいは知ってるぞ」


……もちろん知らない。

だが、このまま誘導尋問に付き合えば、他の情報まで根こそぎ抜き取られる可能性がある。

だから“知ったか”でも、知ってるフリは必要だ。


……にしても、じゃあなんでフレイムヒーラーのリュミナは攻撃魔法を使えてた?

そもそも「魔力回路が治癒特化で固まる」ってのも初耳だ。


そんなことを考えていた俺はふと、カイルの瞳孔が勾玉が二つ噛み合ったような陰陽の形に、ゆっくりと変わっていることに気づいた。


「……俺に嘘はつかない方がいいぞ?」


その声はとても低く、さっきまでとは明らかにトーンが違った。


……は? バレた……?

いや、あり得ない……殺し屋時代でも嘘を指摘されたことなんて殆どなかった。

他に可能性があるとしたら……スキルか? 俺みたいに観察系スキルを持っていれば、嘘も見抜くことも可能だ。


「イザナさんは、自分以外のヒーラーを知らない……そうだろ?」


……ッ。

一応リュミナはヒーラー(?)だが、俺がヒーラーの基礎知識すら持っていないことは見抜かれているらしいな……。

……仕方ない。ここは白旗を上げておくか。

 

「…………あぁ、すまない……だがなぜわかった?」


「俺の天命因子の効果のひとつに嘘が色や揺らぎとして視えるってのがあってな」


嘘が視える? やっぱりスキル系統か……でも天命因子ってなんだ? 聞いたことすらない……。


「……で、だ。ここからが本題なんだが、俺たちのパーティーに入らないか? ちょうどヒーラーを探しててな? 俺の仲間が次のダンジョンで引退しちまうんだよ」


……は?

天命因子とかいう新ワードをぶっ込んできたと思ったら、次は勧誘かよ。

てっきり俺の魔法について探りたいだけかと思ったが、おそらくこっちが本命か?


「あいにく、俺にはかわいい仲間たちがいるんでな。誘いはありがたいけど断っておくよ」


「そっかぁ~! 残念だ! 絶対イザナさんと仲良くなれると思ったんだけどなぁ~!」


さっきの低い声や異様な目つきはどこへやら……カイルは完全にいつもの明るい調子へ戻っていた。


「俺もあんたとは仲良くなれそうだ。だから“さん”付けはやめてくれよ」


「おうっ! じゃあ俺はカイルでいいぞ! イザの医!」


「い……医ってなんだよ。医者の医か?」


「そうだぜ! 俺は仲のいいヒーラーは医者とか先生って呼んでんだ。もしイザの医がダンジョンに興味があるならよ、いつか一緒に潜る時が来るかもしれねぇ〜。そん時はヒールよろしくな?」


「あぁ、わかった。それと、色々教えてほしいことがあってだな……」


嘘を見抜ける相手に、いくら取り繕っても無駄だ。

それに、こいつはまだ他にもスキルを隠している可能性がある。

なら、変に誤魔化すよりも本音で話した方が合理的だし、何より……こいつは悪い奴じゃなさそうだ。


「任せろ! じゃあまずはピエイの風俗についてだな!」


「そういうのはいいからさ。まずはその……天命因子とやらについて、教えてもらえないか?」

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