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第37話 『星型要塞の街』

翌朝。

俺とリュナは、宿屋の部屋で正座させられていた。

目の前では、腕を組んだリカがぷんすか怒っている。

……仕方ないから俺はちゃんと謝ってるが、リュナは「別に悪いことしてません」と言いたげな顔で、まっっったく反省していない。


「も〜〜! 二人とも反省してくださいっ!!」


「は……はひ、ごべんなはい……」

「リュナもごめんなさ〜い」


「ほんっっっとうにもう……先輩のことだから、いつもみたいに食料品とか必需品はちゃんと買ってあると思ってたんですよ……! 信頼してたのに……!」


「はひ、誠にごべんなはい……」


「昨日の夜、調子に乗って爆食して……食料を補充するの忘れてたって……い、一体何してたんですかっ!?」


「はい、すびばせん……」


最後は土下座一歩手前みたいな姿勢で謝った。

……やっぱりバレたか、さすが元殺し屋だ。

ブランクがあるとはいえ、一時期は女スパイもやってたんだ……俺の隠し事なんて完全に筒抜けなんだろうな……。


「……で? お昼頃は、先輩とリュナさん……どこに行ってたんですか?」


「え……ええっと、それは……その……ですね……」


リカはにっこり笑っている……いや、笑っているように見えるが正解かもしれない……。


「先輩が戻ってきた時間、服についた血の匂い、土の付き方、ついでに髪に残ってた洞窟(?)の湿気の匂い……隠し事したって全部、分かっちゃうんですよ……♡ ねぇ、どこ行ってたんですか? 先輩?」


リカはにこぉっと優しく微笑んだまま、すっと首を傾ける。


もちろん、「グレインを倒した」なんて言えるわけがない、言えるわけないのだが……。


……血の匂い、か……やっぱりそこまでバレてるか……とりあえず、「殺しに関わってる」かもしれないって線までは、読まれてる。

でもそれを認めちまったら、買い出し忘れどころじゃなくなりそうだ。

それに、この件を伝えなかった理由は、リカをもう殺しに関わらせたくないって想いもあるんだが、それを説明できる雰囲気でもねぇ……さて、どうするか。


そんな俺の苦悩なんて知らないアホが、満面の笑みで割り込んできた。

  

「リュナもごめんなさ〜い! でもでもイザナ様! 昨日のご飯ほんっと美味しかったねぇ〜!」


……そう、こいつはアホなのだ。


「……リュナさん?」

リカが“ピキィィィッ”と音を立てた気がする……。


「ひ〜んっ……」


「はぁ……そもそも、『欲しい物は明日しっかり買っておけ』って言ったのは誰ですか!?」


「はひ、僕です……買ってきます……」


「は〜い、リュナも行きま〜す」


「リュナさんはダメですっ!! 昨日のこと、ぜ〜〜んぶ、しっっっかり説明してもらいますからね?」


「それなら俺が……」


「先輩は嘘つくのでダメですっ!」


ぐさッ……と、クリティカルが入った。

実際図星だから何も言えない……なら、ここは余計なことを言わずリュナを生贄に捧げてさっさと買い出しに出るのが正解だろう……俺が早く買って戻れば、リュナの尋問も早く終わる……はず……だしな……?


……なお、宿の主人は朝から廊下の向こうで、腹を抱えて笑いをこらえていたらしい。

 



 


必需品を買い終え、俺はリカとリュナを迎えに戻った。

リュナはいつも通りへらっとしてるが、リカはなぜか頬を赤くして俯いていた。


「おーい、買い物終わったから早く行くぞ〜」


声をかけると、リカはゆっくり顔を上げ、じっと俺を見た。


「先輩……そんなことが、あったんですね……」


「リュナ、お姉ちゃんに尋問されたから〜、ぜ〜んぶ話した〜」


「おい〜」


「だってぇ〜、お姉ちゃん怖かったんだも〜ん」


「はぁ……」


まあ、知ってた。

そもそも、アホのスライムに秘密保持なんて期待する方が無理な話だ。


「……先輩、なんで……私も連れてってくれなかったんですか」


「……ま、まぁ……いいじゃないか……ほら、早くピエイの町に向かうぞ……?」


俺は話を強引に切り上げる。

これ以上突っ込まれたら、いくら時間があっても足りないし、余計な心配までさせちまう。


「は〜い、ピエイの町へ、いざ出発っ〜!」

「……もぉ……先輩……」


こうして俺たちは宿屋のチェックアウトを済ませ、シモカプ村を後にした。






辺りもだいぶ暗くなってきた。

シモカプ村から、もう十時間近く歩いている。

未整備の街道はところどころ穴だらけで、かなり歩きにくいが、俺とリカは元殺し屋だ。体力には自信がある。


少し道がマシになったところで、風魔法でブーストもかけつつ、どうにか足を進めていった。

……風魔法、便利しゅぎんだろマジで(n回目)。


そしてついに、俺たちはピエイの街を一望できる丘の上へ辿り着いた。


「おー、あれじゃないか? そろそろ見えてきたぞ……?」


そこから見える景色は、想像を絶していた。


なだらかな丘陵一帯に広がる果てしない農地。

小麦、とうもろこし……さらには見たこともない作物まで、びっしりと栽培されている。

そして、その中心に堂々と鎮座する巨大都市。

都市を囲む巨大な城壁は、凹凸のある異様な形状。

これは、中世ヨーロッパで多く見られた星型要塞と呼ばれる造りだ。


星型要塞……確か、稜堡(りょうほ)から全方向に射撃できる、攻撃特化の要塞だったはずだな。

……内部の建物の密度や煙の本数から見ても、人口はおそらく数十万単位か? おいおい、こんなの街どころかほぼ首都じゃねぇのか?


「わ〜すご〜い。なにあの城壁〜、星型だね〜」


「本当にすごいですね……」


「さすがピエイの街だねぇ〜、辺境とはいえ、リュミナさんの記憶の時よりもっと栄えてる。それに外側は光魔法が濃すぎる〜……魔除けの加護で気持ち悪くなりそう〜」


言いながら、ピンクの髪が目の前でふわりと揺れた。


「おい、大丈夫か?」


思わず、小さな肩をそっと支えてやる。


「中に入っちゃえば平気〜、外側だけだから〜」


「魔除けの加護が強いってことは……入場税も高そうだな」


「いえ、逆ですよ先輩、むしろ入場税は安いはずです」


「おっ……そうなのか? 魔除けの加護の維持には、かなり金がかかるって聞いたんだが……」


「かかりますよ? でもですね〜、ここって三十万人も住んでる大都市なんです。人口が多い街って、商人さんも観光客さんもたくさん来るので、入場税を高くしちゃうと、みんな来なくなっちゃうんですよ。そうなると街の経済が止まっちゃうので、逆に安く設定しておく方が得なんです」


「なるほど、そういうことか……」


「ですですっ、シモカプ村みたいに人が少ないところだと、治安維持の費用を入場税に上乗せするんです。来るのが冒険者さんしかいないので、一人あたりの負担が大きくなっちゃうんですよね」


確かに、シモカプ村の人口は千人くらいだったもんな……そりゃ三十万人の街と経済規模を比べたら、税収の桁も変わるわな。


人が多ければ、その分経済も大きく回る。

宿泊税も、商店の売上にかかる税も、ギルドの手数料も、全部が街の税収になる。

それだけで治安維持費の大半を賄えるから、入場税も安くできる。


思い返せば、シモカプ村の入場税は一人銀貨三枚だった。

小さな村は収入源が限られている分、来る冒険者一人ひとりから取らないと成り立たない……というわけだな。


「とりあえず、もう日も暮れてきてる。関所もそのうち閉まるかもしれないし、急ぐぞ」



そう言って、俺たちは巨大な城壁へ向かって歩き出した。

……さて、どんな街か楽しみだな。

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