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第30話 『常識破りのヒーラー』

盗賊団のアジトは、シモカプ村から大雪山(たいせつざん)方面へ進んだ先の洞窟にあるらしい。

場所を聞いた俺たちは、すぐに村を出て、少女に先導してもらいながら街道を歩いていた。


元C級冒険者、それも戦士上がりか……。

この世界に来てから、対人間の戦闘経験は無いが……いや、落ち着け、魔物と人間じゃ勝手が違う。

ただ、正直なところC級がそこまで強ぇとは思えないんだよな、もちろん実際に殴り合ってみなきゃわからねぇが……。

まぁ、殺し屋時代は人間相手に散々やってきたんだ。いざとなりゃ、どうでもなるとは思うのだが……。


そんなことを考えていると……ふと横目に、リュナがじっと見上げてくる姿が映った。


(……イザナ様、なんかさっきからずーっと難しそうな顔してる……こういう時はリュナが元気にしてあげなきゃ!)


「らんらんら〜ん♪ イザナ様〜、見て見てこれ!」


リュナは嬉しそうに、黄金色の液体が入った小瓶を胸の前で振ってみせる。


「おお? これは……はちみつか?」


「そーそー! シモカプ村特製はちみつエナジードリンク! これ飲んだらどうなると思う〜?」


エナジードリンクってなんだよ……てかどこで覚えたんだ、その単語。


「まぁ、元気が出るんじゃないのか?」


「じゃあ、飲んでみるね! ごくごく……ん゛っ……があっァァ」

リュナの身体がビクンと大きく跳ね、前のめりに崩れかけた。


「お、おい大丈夫か!? 毒じゃねぇよな? ……いや、こいつに毒は効かねぇはずなんだが……」


すると、リュナの背中あたりが、ぐぐっと盛り上がり、白い竜翼が勢いよく飛び出した。

そう、これは竜化だ……だが、それよりも、俺はこの後の展開を知っている。そう、社畜なら誰でも知っているアレだ!


リュナは背中から生えた翼を「バッサァッ!」と広げ、満面の笑みで叫んだ。


「ぱーん! レ○ドブル〜! 翼をさずける〜〜!!」


効果音のキラキラ〜ンまで聞こえた気がした。


「……いやいやいや、それ完全に元の世界のネタだろ! どこで仕入れてきたんだよそのネタ……!」


と言いかけた瞬間、自分の中のなにかが爆発した。


「ぶっ……ふはははははは!! でもよ、それでマジで羽生えるのは面白えわ! おまえそれ……この異世界で通じるの俺とリカだけだぞ!!」


「イザナ様が笑ったーー!! へへっ、えへへへへへへ!!」


「……な、なにあれ……こわ……ほんとにこの人たち、意味分かんないわ……」

 

横で見ていた少女は、一歩どころか三歩ほど後ずさりし、完全に硬直していた。

だが、その反応も無理もない話なのだ。竜族は、そもそも人間界で情報すら出回っていない。

山奥や秘境に棲む、と昔話のように語られる程度で、実際に姿を見た者も、生体を詳しく知る者もほとんどいない。

それに、竜化という現象自体、本来は戦闘時か、強烈な感情の爆発によって引き起こされる「竜族特有の本能的変化」だと伝わっている。

いわば、武器の抜刀にも等しい行為……人前で軽々しく発動するものではない。

ゆえに、白い翼を出してぴょんぴょん跳ね回るリュナの姿は、少女にとって常識の枠を超えた理解不能の光景にしか見えなかった。


「ふ……ははは……あー……すまん、ちょっとツボったわ。そういえば、お前の名前まだ聞いてなかったよな。今さらだが、俺はイザナ……で、お前は?」

俺は腹筋を押さえながら、ようやく息を整える。


「リュナだよー!」


「聞いてねぇよ、おまえのはもう知ってる……」


少女は戸惑いながら視線を逸らし、小さく答えた。

「……私の名前は、セシア・ギアライト。……よ、よろしく」


「おうっ、よろしくな」


「怖かったらすぐ逃げるんだよ〜セシア〜! リュナが守ってあげるからね〜」


「なんで呼び捨てなのよ……だったら私も呼び捨てにするわよ」


「えへへ、いいよー! いっぱい呼んで〜! セシア〜セシア〜♪」


「はぁ!? そもそも私は呼んでいいなんて一言も言ってないし、なんで勝手に連呼してんのよ!? やめてよ! やめなさいってば!!」


リュナは気にする様子もなく、名前を連呼し続け、セシアは顔を真っ赤にしながらツンツン怒鳴り返していた。


……いや、ま、まぁ……さっき泣かせたときはどうなることかと思ったが、それでもこうして普通にツッコむ余裕が戻ってきたのはいいことだ。

この調子なら案外、うまくやっていけるかもしれねぇな。







それからさらに二時間近く歩き続けると、視界の奥に、山肌をえぐるように大きく口を開けた、巨大な洞窟が現れた。


洞窟の前には盗賊団の下っ端らしき連中が、鎖で繋がれた人々を無理やり馬車へ押し込んでいる。

その中には、泣きじゃくる子どもや、目の焦点が合っていない大人、抵抗したのか、殴られ顔が腫れ上がった者の姿もある。……ろくでもねぇ光景だ。


「セシア、あそこにグレインと……お前の妹はいるのか?」

俺が馬車を指差すと、セシアは小さく首を振った。


「ううん。妹もグレインも、洞窟の中のはず。それに……あの人たちは私の村の人じゃない。たぶん……どこか別の村や集落を襲って攫ってきた人たちだよ。奴隷にして……海外に売り飛ばすつもりなんじゃないの……」

淡々と言っているが、その目の奥は怒りと恐怖で揺れていた。


「そうか……。リュナ、お前の見立てでは、あの盗賊の下っ端はどれくらい強い?」


気づけば、さっきまで生えていた白い竜翼はいつの間にか消えており、リュナは何事もなかったかのように盗賊たちを観察していた。


「うーん……二十人くらいいるけど、たぶん全員FとかE級。戦闘経験はほぼ無さそう〜。グレイウルフ一匹でも苦戦しそうだよ?」


「正面からでもいけるか?」


「余裕だと思うよ〜。むしろ威圧しただけでその場から逃げ出しそう〜」


「よし。洞窟だし裏口もなさそうだな……行くぞ、リュナ」


「うんっ!」


「ちょ、ちょっと待ってよぉ!!」


慌ててついて来るセシアをよそに、俺とリュナは淡々とした足取りで歩き出した。

 







洞窟の前には、さっき遠目に見た通り、盗賊どもがたむろしていた。


俺たちが近づくと、そのうちの一人が面倒くさそうにこちらへ目だけ向けた。

……よし、こいつが一番アホそうで話しやすそうだ。

 

「おい、おっさん、中に入れてくれねえか。グレインにちょっと用事があるんだわ」


声をかけた瞬間、盗賊は吹き出すように笑った。

「っははははッ……あー腹いてぇ! なに言ってんだお前ぇ? 自分の立場わかって言ってんのか? 旅人風情がボスに用事? 頭でも打ったかよ?」


その笑いに釣られるように、周囲の盗賊たちもざわつき始める。

「どうするよ? ボスの名前を呼び捨てにしたバカだぜ? 殺して大雪(たいせつ)に埋めてもバレねぇよなぁ?」

「ははっ! 痛めつけてから聞こうぜ。その用事ってやつをよぉ!」

「生意気にもほどがあるぜ、あぁ?」


短剣をシャラリと引き抜く者、肩に引っかけていた片手剣を構える者、腰の曲刀をニヤけ顔で舐めるように持ち上げる奴までいる。

そして、ナイフを頬に当ててにやにや笑う盗賊が、ねっとりとした声で言った。


「いいか坊主。ここに来た奴ァな……帰らねぇのが基本なんだわ」


その言葉に合わせるように、後方から槍を持った盗賊が勢いよく飛び出してくる。


「クソガキがッ!! まとめてぶっ殺して金にしてやらぁ!!」


……完全に敵意むき出しだな。

俺は肩を軽く回し、隣のリュナにちらりと目をやった。


「武器抜いたら、こっちも手加減できねぇんだわ……リュナ、どっちが多く倒せるか勝負だぞ」


「うんっ! 負けないよイザナ様〜!」


「ちょ、ちょっと待ってぇぇ!!」

セシアは反射的に後ろへ飛び退きながら(え、これ戦う流れなの!? 無理無理無理無理!)と心の中で絶叫していた。


「セシアはリュナに守ってもらえ。怪我したら俺がすぐ<ヒール>するから安心しろ」


「えー、守りながら戦うの? でも、さっき守るって言ったし……ま、いいハンデかも! リュナ最強だから〜!」


「はぁ!? あんた交渉下手なの!? なんで自分でハンデ増やしてんのよ!!」


盗賊どもが突撃するより早く、俺は周囲に魔力を解き放った。


「<ブラッド・バレッド>」


俺の周囲に浮かび上がった数十発の弾丸が連射され、盗賊たちの手足を正確に撃ち抜いた。

同時にリュナが地面を蹴り、薄いピンクの髪をふわりとなびかせながら敵と距離を詰める。


「はぁぁっ! ――紅蓮斬ッ!」


リュナが構えた魔鉱の小剣が赤く輝き、炎をまとって横薙ぎに一閃した。

その斬撃は鋭く、下っ端盗賊たちをまとめて吹き飛ばした。

……そこから先は、もう戦闘ですらなかった。


 

――転がる盗賊。

――悲鳴。

――逃げる足音。

――再び悲鳴。



そして、ほんの数分後……


「ひ……ひぃ……ひぎ……」


最後に残ったひとりが腰を抜かし、俺とリュナを見て泣きながら後ずさる。

洞窟前にいた盗賊どもは、全員まとめて地面に転がっていた。


「……E級でこの程度か。マジでこんなんじゃグレイウルフも倒せねぇだろ」


「イザナ様〜! リュナは何人倒した!? リュナの方が多いよね!? ねっ!」


「ごめん、数えてねぇわ……」


「えぇぇー!? 数えてよ〜〜!」


「……まぁいい。とりあえず、中に入らせてもらうぞ」


リュナが鼻歌まじりに洞窟へ向かう横で、セシアは完全に固まっていた。


(な、なにこの人たち……。リュナが強いのはわかる、竜族だし……でも、イザナってヒーラーでしょ!? なんであんな赤い魔法を使えるのよ!? ていうか、杖どころかスティックすら持ってないじゃない!! 杖術と魔導の基礎、《魔法行使理論入門》や《初級魔導士ハンドブック》にも書いてあった……「杖を介さない魔法は軌道が安定しない」って!! それなのに、なんで真っ直ぐ飛んでんのよ!? ていうか威力……完全にヒーラーのそれじゃないんだけどぉぉぉ!?)


セシアの常識は、洞窟に入る前からすでに粉々に砕け散っていた。

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